懲役刑、禁錮刑の執行
懲役刑や禁錮刑は自由を奪う処分です。交通事犯でも労働を強制される懲役刑が最近は多くなりました。しかも交通刑務所に服役するのはごく限られた人です。多くは一般の刑務所に他の囚人と一緒に服役させられます。
交通事犯で懲役刑、禁錮刑に処せられることを、体刑または身体の自由を拘束する自由刑とよんでいます。これらの刑に処せられる多くは、人身事故をともなったものと交通違反を数多くしている人達です。処罰の目的は、いろいろありますが、なんといってもその重点は、被告人か将来再び事故や違反を繰り返すことがないようにこれを防止することにあります。自由刑は、自由を拘束することによって苦痛を与えるとともに、教育をほどこすことを重点としています。
懲役刑、禁錮刑ともに、刑務所に拘束するものです。懲役刑者に対しては一定の労役が科せられ、これを拒否することは許されませんが、禁錮刑は本人の希望のない限り、労働に服させることはできないことになっています。禁錮刑は、歴史的には主として政治犯に科せられたもので、いわゆる非破廉恥罪といわれるものと、過失犯罪に科せられてきました。
交通事犯の刑である業務上過失敗死傷罪の法定刑も、禁錮刑を定めていました。ところが、車の急増にともない悪質な事故が増加するにいたって、昭和四三年に刑法の一部改正が行なわれ、新たに懲役刑が加えられるにいたりました。現在の裁判例では、酒酔い、無免許、ひき逃げ、速度違反、横断歩道上の事故など、悪質な事案による交通事故に対しては、原則として懲役刑が選択され、禁錮刑が減少している傾向があります。
体刑の執行も、検察官が責任の主体となり、検察官の執行指揮書によって執行が開始します。すでに身柄が逮捕勾留によって未決の拘置所や警察署にいる場合には、そのまま刑務所に移監となります。身柄不拘束の在宅中の者については、検察庁に呼び出しのうえ、もよりの刑務所に留置し、そこから分類のうえ、各地の刑務所に分散されます。検察官の呼び出しに応じない者に対しては収監状が発行され、もよりの刑務所に収監の手続きがとられます。
未決の場合とちがって、刑がきまってからの待遇は、いっさい刑務所の監督下にはいりますので、衣類はすべて官給品となり、差入れなどの食事も許されなくなります。衣服や所持品は全部留置され、出所のときに返されることになります。
刑務所にはいってから二週間ないし三週間たちますと、分類を担当する刑務所において、受刑者の科学的調査が行なわれ、その結果にもとづいて、各地の刑務所に収容、分類されます。交通事犯だからといって、すべて交通専門の刑務所に送られるわけにはいきません。懲役刑者はすべて、一般の刑務所に服役させられております。
服役後、刑の短い者は、刑務所の雑役などにあてられているようです。やや長期の者に対しては、木工、印刷、農業などの軽作業が課せられ、できる限り交通事犯者をまとめて雑居房に入れ、他の囚人との接触があまりないように配慮されています。
このようにして、刑期満了まで服役するのが原則ですが、改悛の情がいちじるしく、社会復帰が可能と考えられる者に対しては、地方更生保護委員会の審査によって仮釈放するという制度があり、刑期の三分の一以上を終わった者に許されます。
しかし、三か月とか四か月の刑の短い懲役刑者に対しては、仮釈放ということはあまりなく、懲役一年前後の重い事件の場合は相当度に考慮されているようです。
なお、仮釈放の審査のIつとして、被害者に対する示談弁償の有無も重要なものとされていますので、裁判までに示談ができないからといってなげることなく、家人にたのんで示談できるよう努力しておくべきです。
交通事故を起こすとどのような問題が生ずるか/ 交通事故と刑事、民事、行政上の責任/ 交通事故から処罰までのあらまし/ 交通事故現場でとるべき措置/ 被害者の救護義務とは/ 交通事故の報告義務を怠った場合/ 交通事故での替え玉の刑事責任/ 物損事故のときの措置/ 取り調べられるときの基本的な態度/ 取り調べられるときの運転者の権利/ 現場検証とそのやり方/ 供述と調書がくいちがった場合の対策/ 被害者にも過失がある場合の供述の仕方/ 交通事故の証拠保全の仕方/ 検察官の取調べのポイント/ 起訴、不起訴処分について/ 不起訴処分に被害者が不服のとき/ 身柄を拘束されるのはどのような場合か/ 逮捕勾留の手続きと対抗法/ 逮捕勾留に対する防禦の仕方/ 拘束されている人への面会や差入/ 保釈の手続きと保釈金額/ 刑事責任と示談との関係/ 示談はどのようにして進めるか/ 示談の履行の仕方/ 嘆願書、上申書と刑事処分の関係/ 略式命令による処罰/ 即決裁判手続きによる処罰/ 交通反則通告制度/ 裁判手続きはどのようにして進められるか/ 弁護人の選任の仕方/ 公判準備はどのようにしたらよいか/ 公判廷にのぞんでの態度/ 刑事処分の内容はどうなっているのか/ 量刑を左右する事情/ 少年の交通事故と家庭裁判所/ 罰金刑の執行はどうするか/ 懲役刑、禁錮刑の執行/ 故意犯と過失犯の違い/ 業務上過失犯とは/ 交通事故と信頼の原則/ 交通事故の三悪とは/ 被害者や第三者に過失がある場合/ 歩行者の飛出しで対向車に衝突した場合/ 自動車の故障による事故/ 交差点内の直進車の事故/ 交差点での右左折車の事故/ 車の死角と運転手の責任/ 無免許者に運転させた者の責任/
copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved