交通事故の証拠保全の仕方

取調べは被疑者を対象として、被疑事実を立証するという方向ですすめられます。運転者としては、自らも、自己防衛のため、反対の証拠をできる限り確保しておきたいものです。そのためには、どのようにして証拠を集めたらよいのでしょうか。
 交通事故は、加害者のみが一方的に悪いということはなく、被害者や第三者にも責任があるものもあります。加害者にも主張すべき言い分かあるものです。しかし、その言い分が単なる口先だけの主張であっては水掛論に終わってしまうのがおちで、なんの意味もありません。みずからの主張を客観的に裏付けるだけの証拠を集め、合理的に説得できる主張とすることがぜひとも必要です。これによって警察官や検察官を説得するだけではなく、裁判所をも最終的には説得するものであるわけです。
 警察や検察庁も当然に証拠を集めますが、常に加害者の立場を考えて集めているわけではありません。また現場の状況や時間の経過によって、証拠収集が不可能となってしまうこともあります。そのためには、加害者側としても、できる限り早期に証拠を集めておくことが必要です。道路標識、信号機など事故直後に設置されることもあり、目撃者も四散してしまいます。事故に動転している際に、証拠を集めろということは、無理な注文かもわかりませんが、同僚なり知人なり上司に相談して、応援してもらうことができると思いますので、できる限りの努力をつくすことがどうしても必要です。

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それでは、具体的にはどのようにして証拠を集めたらよいかを検討してみましょう。
 一口で言えば、事故の状況ということになります。具体的には、現場検証の際に述べたことと同様です。自分で、できる限り広く正確な証拠を集めることが必要です。車両の状況、被害 者の身分事項(交通前歴、飲酒の有無、免許の有無等)等についても、ぜひ検討しておきましょう。善良な被害者とばかり思われていた男が、あたり屋であったことな ど、思わぬ資料が発見されることもあります。
 写真機、録音機の活用 証拠の収集でたいせつなことは、現場の保存と正確な把握ということです。とくに、現代のような交通事情の下では、たちまちのうちに現場の状況は変化してしまいます。そのため、迅速でかつ正確な証拠を残すには写真機の活用がぴったりです。事故現場付近のあらゆる様子をあらゆる角度からフィルムに残しておくことです。衡突部分のみに目をうばわれがちになりますが、道路の見通し状況、勾配、路面の状況、信号機等、広い範囲で撮影しておくことが必要です。とくに撮影するところとしては、スリップ痕の有無、車の破損状況、事故直前の双方の位置の状況、交通標識の有無、交通量などがあげられます。付近の駐車車両のナンバー等も写しておきたいものです。なお撮影にあたっては、撮影地点と角度を略図に書き、家や電柱などの固定地点を確定して、これを基点として事故地点を把握できるようにしたいものです。それが、写真の正確性を裏付けるものともなります。
 次に、録音機が手近にあったら、これを活用することも一つの方法です。たとえば被害者とのやりとりや目撃者の証言を録音したり、事故直後の鮮明な記憶を、メモの代わりに言葉で思いつくままに録音しておくことも後日に役だつでしょう。なお録音のなかに録音の日時を口頭で発音して入れておくと便利です。
 目撃者を集めること、市街地内の事故などでは、多くの目撃者がいるものです。付近にいた人で事故を目撃した人を早く見つけておきましょう。話を聞く余裕がなければ住所氏名電話等を聞くとか、名刺をもらっておければよいと思います。警察や検察庁へはかかわりあいになりたくないもので、なかなか目撃者が協力して出頭してもらえるものではありません。しかし、事故直後のなまなましい時期には案外に協力を約束してくれるものです。
 写真機や録音機が手元になくともペンを持っておれば、紙片に書いておくことです。その時はわかったようでも、時がたつと忘れてしまいます。メモに次々に書いておくと、後日必要でないと思って書いておいたことが重要な資料となるものです。相手方の言ったことや、目撃者の氏名、車両のナンバー等はぜひとも書いておきましょう。
 当日は無理かと思いますが、できれば翌日にでも現場に行って図面を描いておきましょう。警察の実況見分で作成される図面が、常に正確ですべての事項を記載してあるとは限りません。また加害者の供述と異なって書かれることもありうるでしょう。事故の状況は、事故を起こしたものが一番よく知っているのですから、みずから作成してみましょう。
 測量士であった加害者が、正確な測量図を作成して、自己の無罪をかちとったケースもあります。加害車両の速度と制動可能範囲などは計算ですぐにできますが、その基礎となるのは現場の図面です。事件の大量処理に追われる警察官の図面に、ときに誤りがあることは、見聞されるところです。これを破るには、より精度の高い図面がたいせつだということです。

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