少年の交通事故と家庭裁判所
少年は成人と異なり家庭裁判所による教育的処遇を中心に取り扱われています。この家庭裁判所の処遇の内容、試験観察制度、集団講習や合宿などの創意と努力の足跡を追って、少年事件特有の処遇を考えてみましょう。
成人の交通事件に対しては、交通法規の違反や交通事故という結果に対する処遇が中心となって、刑事責任の追求が展開されております。しかし、これに対し少年の交通事件については、少年に対する教育が中心となり、再犯の防止を重点に個別的処遇をなすことが重点となっております。
しかし、最近の交通事故の激増化にともなって、迅速な大量処理と定型的機械的処理の要求とはしだいに少年法本来の理念を失わせ、成人と変わりない画一的、形式的な処遇に移り変わりつつあると言えます。
少年事件の処遇は、原則として家庭裁判所の決するところです。検察庁では少年事件についての起訴、不起訴を決定する権限はありませんし、家庭裁判所を経由しないで地方裁判所が少年に刑罰を料することもできません。刑事処分に相当するか否かの判断権は家庭裁判所にあり、家庭裁判所が決定しない限り刑事処分権は及びません。これを家庭裁判所先議権と呼んでおります。
しかし、近年では反則金制度の少年に対する運営によって、実質的には家庭裁判所の権限が大幅に後退を余儀なくされつつあります。
ところで、家庭裁判所は、法律家である裁判官の法律的判断が中心となるのではなく、教育学、心理学、社会学の専門の少年調査官や、医師である技官、あるいは鑑別所技官らによる、社会調査や鑑別結果等の科学的資料が中心となって、処遇が決定されるところです。
ここでは、文字どおり処罰ではなく教育的処理が重点となってまいります。単に違反事実や事故結果ではなく、これまでの違反経歴、生活歴、性格、知能、生活環境なども調査の資料として集められ、その原因が検討され、再び違反や事故を超こすことのないよう処遇の指針が決定されることになります。
教育の限界を超えると思われるものは、刑事処分相当の意見を付して検察庁に送致になります。検察官は家裁のこの決定に拘束され、成人と同様の処分を、地方裁判所や簡易裁判所に求めなければならないことになります。
家庭裁判所の処分は、この検察官送致の処分のほかに、本来の最終処分として、少年院送致、保護観察、不開始、不処分に分かれます。不開始、不処分は、裁判所の処分として注意や指導勧告などです。保護観察処分は、保護観察所の観察官や保護司の指導の下で二〜三年間生活指導が続けられます。現在では交通専門の保護司が委託されたり、指導が強化されつつあります。最も重い処分としては、少年院に送致するものがあります。違反とその年齢に応じて初等、中等、特別少年院のいずれかに一年から二年くらい拘束する処分ですが、交通事犯は比較的短期に出所させています。交通事犯のみでは、めったに少年院に送致するということはありませんが、違反暦や違反内容によっては少年院に送致するという場合もあるようです。
家裁の処遇の特徴的なものとして、最終決定をなす前に、試験観察という制度があります。少年調査官のケースワークによる補導を基調として、少年や保護者の動向を観察し、最終処分を決定する制度です。軽い違反や犯罪悪の少ない者に対しては書面による注意や、集団講習による講義や映画などをとおしての教育、運転資格についての再教育など、数々のバラエティに富んだ教育的指導がとられております。
また悪性の進んだものに対しては、二泊か三泊かの合宿訓練に参加させて、裁判官や調査官と寝食をともにし、交通問題についての討議はもとより、朝起床して夜休むまでの生活訓練や、社会生活の基本を学ぶことを重点に、おちついた生活観を身につけさせることなども行なわれています。
このように、少年に対しては、家庭裁判所の創意と努力により多くの効果をあげてきました。しかし多量化しつつある事故の現実は、捜査当局に厳罰化の傾向を強めさせるとともに、家庭裁判所の処遇についての世間一般の無知と偏見が、この伸びようとする芽をつみ、ともすれば少年に対する本来の処遇を誤らせようとしております。私たちは少年法の出発点に帰って、交通問題の把握と処遇を考えていかなければならないと思います。
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