略式命令による処罰
道路交通法違反や軽い交通事故事件の多くは、略式命令という簡易な手続きの書類審理のみで処理されています。どんな場合に略式命令で処理されるのか、また、どのような仕組みになっているか考えてみます。
交通違反者や事故者に対する処罰の決定は、最終的には裁判所のするところですが、この決定の手続きには、公判廷における刑事訴訟手続きによって審理され、提出されたいっさいの証拠にもとづいて判決にいたる手続きのほかに、書面審理のみで裁判できる略式命令の手続きや、即決裁判の簡易な手続きがあります。略式命令のうち、最も簡易な手続きが交通切符制度です。またこれに類似する制度として反則金制度があります。これは交通違反のうち軽度のものに対して、科せられるものですが、刑事処分とは異なる性質のものです。
略式命令は、罰金もしくは科料を相当とするものについての事件のみが対象となります。交通違反のみならず交通事故も対象となります。したがって前に述べたように、公判請求をするか、略式命令を求めるかの選択権は、検察官にありますので、まず捜査が終わって、罰金相当と検察官が判断したときにのみ、略式命令がなされます。
この場合、被疑者に対して略式命令を求めることを告知し、被疑者が異議ない旨を述べ、書面に署名押印することを必要としております。捜査が終わった段階で、通常検察官は略式命令告知書と申述書が同一書面に印刷されているものを被疑者に交付して説明したうえ、末尾に承諾の旨の署名押印を求めています。しかし署名押印がなされたからといって、必然的に略式命令を求めなければならないことはありませんから、場合によっては公判請求がなされ、懲役刑などが求刑されることもあります。
さて、検察官から略式命令の請求を受けた裁判所は、全記録を検討し、不相当と認めた場合は、直ちに通常の公判手続きにしたがって審理する旨を検察官に通知します。相当と認めた場合は、罰金または科料の支払いを命ずる略式命令を発行し、略式命令謄本を被告人に送達します。
送達を受けた被告人がこの命令に不服のある場合は、この期間内に異議の申立てをしますと、略式命令は失効し通常の公判手続きにそのまま移行し、公判手続きが開始します。被告人に不服がないときは一四日間の経過により略式命令が確定すると検察庁から被告人に納付命令がだされ、被告人はその命令にしたがって納付の手続きをとることになります。
略式命令の請求を受けた裁判所は、まずその事件が略式命令をすることができるものであるか否かを審査します。犯罪を証明するだけの証拠があるか否か、免訴や公訴棄却をすべきものであるか否か、法定刑に罰金利率料科刑が定められているか否か、時効の有無等を、一件証拠から調べるわけです。
次に、事件が略式命令に相当であるかどうかを審査します。これは公開の法廷の対審構造の審理を妥当とするかどうか、証人の証言や被告人の供述を求めたり、現場の検証や鑑定を必要とするかどうか、罰金刑よりは懲役刑や禁錮刑が相当ではないかなどです。略式命令は検察官の提出した証拠の非公開による書面審査であり、被告人側の証拠の提出がありませんので、その運営はとくに慎重にされるわけです。
なお、被告人から略式命令に対して異議申立てがあると、事件は公判に付されますが、この場合、すべて白紙の状態から出発しますので、証拠調べの結果無罪になることもあるし、場合によっては罰金刑ではなくなって懲役刑になることもあります。罰金でも高額になる場合もあります。もっとも、事件について争いがあり不満があっても、正式の裁判をするわずらわしさや、罰金額が少ないことなどの理由から、つい略式命令を認めて確定させてしまうこともあります。ところがこれが民事の損害賠償の請求資料として使用され、過失ありとして多額の賠償金を負担させられることもありますので、安易に処理しないことが必要です。
以上述べたことは、主として在宅略式と呼ばれているものです。ところが交通事件の増加にともない、身柄が勾留されていて、しかも罰金刑を相当とする事案について、違反者の身柄を確保したまま即日裁判所に略式命令を請求し、その日のうちに命令が見せられる場合があります。これを在庁略式と呼んでいます。
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