保釈の手続きと保釈金額
身柄拘束中の被告人が一時釈放される制度に保釈があります。保釈はどんな場合に許され、誰でも保釈請求できるのか、また保釈はどのような手続きですすめられ、保釈保証金はいくらくらい用意すればよいのかを考えてみましょう。
逮捕勾留の期間中に釈放されず起訴されますと、勾留はさらに引きつづきます。加害者の身分は被疑者から被告人へと変わります。被告人になりますと、裁判所の決定により、一定の金銭を納付して、一時身柄を釈放してもらう制度があります。これを保釈といい、納付する金銭を、保釈保証金と呼んでおります。保釈請求権は、身柄拘束中の被告人にとって、自由を得るための重要な権利の一つです。
請求権を有する者は、被告本人、弁護人、親権者、配偶者、親族、兄弟姉妹などです。これらの人たちは、加害者が裁判所に起訴されたら、直ちに請求することができます。
保釈を許すか否かは、法律にいろいろと細かい要件が定められております。これを要約しますと住居不定、罪証隠滅の危険、第三者に危害を加える危険、法定刑が一年以上の犯罪等の場合を除いては、原則として許可されるといえます。
殺人や強盗事件と異なり、交通事件は主として過失犯ですし、善良な家庭の出身者が多いこともあって、保釈の許可の率は高いようです。酒酔いやひき逃げなどの悪質事犯であっても、起訴までに証拠も固まっており、逃走の危険もなくなってきておりますので、保釈の許可はされているようです。
保釈申請書を請求権者が裁判所の窓口に提出しますと、裁判所は検察庁に書類をまわし、検察官の意見を聞いて、許可、不許可の決定をします。許可の際は、同時に納付すべき保釈保証金の類を決定します。請求者はこの決定にもとづいて、裁判所の会計に保証金を納付しますと、書記宮室にその旨の連絡がいき、ここから検察庁に通知され、検察官が釈放指揮書を拘置所に送り、拘置所で釈放の手続きをとります。
地方の裁判所ですと、このいっさいの手続きは三時間ないし五時間くらいですみます。ですから午後一時ごろ申請しても、夕方には釈放となります。ところが東京や大阪などでは、申請してから三日ないし七日間ぐらいを要します。裁判所の事務手続きや検察庁との往復に、膨大な事務をこなす結果といわれていますが、改善されるべき問題です。
保釈は一時的に身柄を釈放し自由にする制度ですから、釈放にあたっては各種の条件がつけられ、これに違反すると、保釈取消しとなって身柄を再び拘束されるとともに、保釈保証金を没取されることがあります。たいせつな条件の一つは、逃走しないこと、裁判所から呼出しのあるときには必ず出頭することです。その他、かってに旅行したり、転居することも許されません。
家族が親類、知人を駈けまわって、ようやく保釈保証金をつくって納付し、本人を釈放してもらったところ、逃走してしまい、保釈金を没取されてしまったなどという気の毒なケースは、よく見聞するところです。釈放にあたっては、保釈の条件や家庭の事情など、よく本人に話しておいたほうがよいでしょう。
保釈保証金は、被告人の出頭を確保し逃走を防止するためのものです。保証金の額は、犯情、証拠の内容、被告人の経歴、職業、性格、資産、事件の軽重等いっさいの事情を斟酌して、裁判所の判断により決定されます。
交通事犯の場合は、一般的に言えば、一五〇万円前後の範囲内で決定されております。地方では低く、都会では高額化の傾向があります。
なお、保証金がどうしてもできないときには、保証書によってこれを認めることがあります。裁判所が、弁護人など特定の者に、保証書を保証金に代えて提出させることを許可しますと、保証書を提出すれば保証金を納めたと同じことになります。この場合、違反行為があると、保証人に対し保証金の納付が命ぜられ、強制執行がなされることになります。
保釈中に、裁判所の出頭に応じなかったり逃走したり条件を守らなかった場合は、保釈は取消しとなり、保証金を没取されることかあります。
裁判の結果、実刑に処せられますと、保釈はやはり無効となり、判決宣告の公判廷からそのまま収監されます。収監されますと、保証金はいつでも返還を求めることができます。執行猶予や罰金の判決がありますと、保証金は、いつでも返還が求められます。
なお、高等裁判所や最高裁判所へ、控訴や上告する場合には、再び保釈を請求することができます。この際、前に積んである保証金に上積みして、許可されるのがふつうです。
保釈金はこのように、もともと逃走しないための保証金ですから、被告人が手続きを守り逃げない限り問題はありません。勝手な行動をしたり逃走しますと、保釈金を積み立てた人が損害を蒙ることになるわけです。
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