故意犯と過失犯の違い

刑法の用語でいう、故意犯と過失犯の相違を考えてみました。交通事故でも殺人罪になるか、傷害致死罪になるかは処罰の面で、たいへんに違ってきます。この故意と過失の中間に未必の故意という難しい問題もあります。
 故意犯、過失犯とは何でしょうか。刑法上、この両者の区別は重要な問題点をもっています。たとえば他人を死亡させた場合をとってみますと、このことはよくわかると思います。人を殺す意思で殺害した場合は故意があり、殺人罪ということになります。これに対して、誤って死亡させた場合は過失犯となり、過失傷害致死ということになります。殺人には死刑が科せられることもありますが、過失致死にはそれほどに重い刑は科せられません。そこで、この故意と過失について考えてみましょう。
 刑法では「罪を犯す意」(故意)にもとづくものでなければ罰せられないのが原則です。そうして例外的に、行為者の不注意によって人を死亡させたり、傷害を与えた場合には、処罰されることもある旨を規定しています。これが過失犯と呼ばれるものです。
 この故意犯と過失犯との違いは、人の殺傷というような結果の発生することを予想して行為をしたか、それとも、結果が発生するかも知れないのに不注意にもそれに気付かなかったかの違いです。処刑の面からみますと、原則的に処刑すべきものと、政策的に処罰すべきものとの相違となっております。

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これを交通事故の場合にあてはめてみますと、車を運転中、前方に人影を見ながら、なおもスピードを緩めず進行した場合、殺意をもって運転する場合もあるし、そうまでは思わないにしても、自分の車がぶつかって、死に至るかもしれないがそれでも構わないと思って運転する場合も考えられます。
 前の場合は明らかに故意がありますが、あとの場合はむずかしい面があります。刑法学者はこの点について、「結果が発生することを予想しつつ、しかもその結果の発生を自分自身で認めつつ行為するのであるから、法的面から考えると、結果発生を希望し意欲しないからと言って、予想しながらあえて行なう以上、意欲して行動した場合と同様に法的責任を負わせるべきである」としております。そうして、このことを「未必の故意」と呼んで、故意の一種として扱い、処罰されます。
 したがって、故意は必ずしも結果の発生を意欲することまでは必要でないが、少なくとも、結果の発生に対する行為者の認容、結果が発生しても止むなしとする態度が必要であると考えられているわけです。
 これに対して、前方に人影を見た場合、その人を轢くつもりなど毛頭なく、その人が立ち止まって自分の車を見送るものと考えて運転する場合もありますし、またその人が、場合によっては車の前方を横切りぶつかるかもしれないが、たぶん、そんなことはしないだろうと考え、そのまま車を進行させてもだいじょうぶだろうと考えて車を運転する場合も考えられます。
 この結果、前方にいた人に車をぶつけてけがを与えたり死亡させた場合、前に述べた故意犯の場合とは明らかに違うにしても、これを不処罰ということは常識に反します。運転者としては、人が飛び出してくるかもしれない危険性を予想して、警笛を鳴らすなり、スピードを緩めるなり、危険回避の手段を講じておれば、事故の発生が防止できたと考えられる場合、もし運転者として、そのような事故防止の義務をつくさずに、事故が発生したとなれば、その不注意な態度は法的非難の対象となると言わなければなりません。これが過失犯の問題です。
 しかし、前にも述べたように、過失犯は法律に特定の規定のある場合にしか処罰することはできないことになっています。これを道交法でみますと、速度違反、信号無視、通行禁止制限違反、徐行義務違反、追越禁止場所違反、駐停車違反、燈火違反、警音器使用等違反、通行区分帯違反、免許証不携帯など、過失犯を処罰していることがあげられます。なお交通事故そのものについては、刑法の業務上過失傷害罪、重過失傷害罪などの明文の規定があり、これによって処罰がなされるわけです。

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