業務上過失犯とは

業務上過失犯という犯罪の定める業務の内容、なぜ業務上の犯罪は罪が重いのか、どのような場合に争点となってくるのかを考えてみましょう。無免許運転でも業務に なることがあり非常に広く解釈されています。
 業務上の過失とは、通常の過失に対して、行為者が「業務上必要な注意を怠ったこと」によって人の死傷の結果を生じさせた場合を言い、刑法第二一一条に定められております。この業務上必要な注意を怠ったために引き起こした死傷等については、刑法第二〇九条、二一〇条に定めている一般の過失犯の場合と比較してみますと、明らかに重く処罰されることになっております。これは、業務に従事している者は一般の者に比較して危険でもあり、責任も重いこと、したがって処罰を厳しくすることによって義務をつくすよう、社会から要求されているものであると言えます。

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そこで業務ということについて検討してみましょう。業務の意義について、判例は、業務とは、本来、人が社会生活上の地位にもとづいて、反覆継続して行なう行為であって、その行為が他人の生命身体等に危害を加えるおそれのある性質のものであることと述べています。その他の判例等を要約しますと業務は、社会生活上の地位にもとづいて反覆継続して行なう行為ということよりも、人の生命身体に危害を加えるおそれのある行為の反覆継続ということに移ってきており、ケースによって、具体的事案へのあてはめが検討されているようです。また、そこでは、業務者であるという特定の地位や身分関係は、必ずしも必要なことではなくなってきております。
 自動車の運転の場合であっても、タクシーや、バスの運転者のような職業的運転者に限定されず、医師が往診のために、あるいは商人が配達のために、自家用車を運転する場合も業務中であると言えるわけです。ドライブのためにレンタカーで運転中の学生や会社員であっても、自動車の運転に従事中であるという点においては、まったく同様なわけです。
 自動車の運転が本来の仕事であれば当然であるとしても、本来の仕事を補助したり、娯楽の ための自動車の運転であっても、また免許の有無を問わず、それが反復継続する行為であるならば、業務性を肯定すべきものだといえます。
 その結果、運転免許資格者は、反覆継続的に、人の生命身体に危害を加えるおそれのある行為をするわけですから、原則的に業務者であるといえます。
 問題は無免許運転の場合です。ただ一回の運転中の事故ならば、反覆継続ではありませんから、業務ということは困難かと思いますが、何回も運転を繰り返していたとなれば、やはり業務上過失犯の責任を科してよいものと考えます。
 さて業務上過失犯は、一般の過失犯の場合よりも処罰が重いことの根拠については、意見が分かれております。第一の考え方は、業務者には通常人と異なった、特別に高度な注意義務が課せられており、その義務に違反したがために重い責任を負わせられるのだとしています。第二の説は、特別の業務に従事する者には、とくに重い刑事責任を負わさせて、一般人より強い注意を喚起させる必要があるからだとしています。第三の説は、これらの業務に従事する者によって引き起こされる被害は、重大かつ多数であることが多く、したがって違法性の程度が高いからであると説明しています。第四の説は、一定の業務に従事している者は、その業務に関しては、普通人よりも注意が行き届くはずであるから、その意味で、とくに重い注意義務を負担させるのが相当だからだと説く立場です。現在の通説は、第四の説であろうかと思われます。

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