交通事故での替え玉の刑事責任

交通事件では、ときおり替え玉犯人の問題がおこります。安易な考えで替え玉犯人になり、実刑の宣告を受けて、あわてて取り消しても手遅れです。替え玉となった人も、つくった人も、交通事件とは別に処罰されます。
 交通事故の場合、他の犯罪に比較してとくに多いのが替え玉犯人です。これは交通事故の激増の結果、事故や違反が日常茶飯事のようになっていること、処罰を罰金程度ですむと考えていること、気も働店てんしている運転者の軽卒な判断によること、社会的地位や評判を気にすることなどが、その原因にあげられるようです。そのため無免許運転者や酒酔い運転者の代わりに、友人が替え玉になるとか、社会的地位のある上役のために部下の職員が犯人として名乗りでるなどの例があるようです。これらは地方裁判所などで実刑の判決を受けてからあわてて身替りであったなどと申し出るのが通例のようです。このような場合、どんな刑事責任が用意されているのでしょうか。

スポンサーリンク

替え玉犯人に、それが他の犯人の代わりですから、当然に、当該の交通事故そのものについての刑事責任はありませんから、無罪ということになります。しかし、このままでは勝手に捜査を妨害し、裁判所の判断を誤らせ国民にも多大な迷惑をかけているばかりでなく、このようなものを放置しておくことは社会の正義と秩序の観点からも許されないところです。
 そこで刑法は、このようなけしからんものに対しては犯人隠避罪という罪を設けています。重要な真犯人を隠したという罪です。処罰は二年以下の懲役もしくは一万円以下の罰金ということになっ ております。したがって友人のために身替りとして出頭した者は、その身替りの事実がわかってしまったときは犯人隠避罪によって処罰され、友人はもともとの交通違反や交通事故の罪によって処断され、結局は二人が刑務所にはいるという結果になるわけです。
 なお、家族の者が犯した交通違反について、他の家族員が身替りとなって自首したような場合には、特種な関係を考慮して刑が免除されることがあります。これは親族間の血の関係、愛情関係を考慮した結果です。
 友人のために、あるいは上司のために、替え玉になるよう働きかけた者の責任がつぎに問題になります。たとえば部長が交通事故を起こしたので部下の職員に身替りになるよう働きかけた課長のような者の責任です。刑法はこの場合、真犯人でもなく身替り犯人でもないが、身替り犯人を仕立てた者は、犯人隠避罪の教唆犯として、身替り犯人と同様に処罰するようになっています。刑は身替り犯人と同様です。ですから、法を甘くみて、替え玉などをつくりますとたいへんなことになります。交通違反の罪などよりは、こちらの処罰のほうが重いこともあることをよく考えなければならないでしょう。

交通事故を起こすとどのような問題が生ずるか/ 交通事故と刑事、民事、行政上の責任/ 交通事故から処罰までのあらまし/ 交通事故現場でとるべき措置/ 被害者の救護義務とは/ 交通事故の報告義務を怠った場合/ 交通事故での替え玉の刑事責任/ 物損事故のときの措置/ 取り調べられるときの基本的な態度/ 取り調べられるときの運転者の権利/ 現場検証とそのやり方/ 供述と調書がくいちがった場合の対策/ 被害者にも過失がある場合の供述の仕方/ 交通事故の証拠保全の仕方/ 検察官の取調べのポイント/ 起訴、不起訴処分について/ 不起訴処分に被害者が不服のとき/ 身柄を拘束されるのはどのような場合か/ 逮捕勾留の手続きと対抗法/ 逮捕勾留に対する防禦の仕方/ 拘束されている人への面会や差入/ 保釈の手続きと保釈金額/ 刑事責任と示談との関係/ 示談はどのようにして進めるか/ 示談の履行の仕方/ 嘆願書、上申書と刑事処分の関係/ 略式命令による処罰/ 即決裁判手続きによる処罰/ 交通反則通告制度/ 裁判手続きはどのようにして進められるか/ 弁護人の選任の仕方/ 公判準備はどのようにしたらよいか/ 公判廷にのぞんでの態度/ 刑事処分の内容はどうなっているのか/ 量刑を左右する事情/ 少年の交通事故と家庭裁判所/ 罰金刑の執行はどうするか/ 懲役刑、禁錮刑の執行/ 故意犯と過失犯の違い/ 業務上過失犯とは/ 交通事故と信頼の原則/ 交通事故の三悪とは/ 被害者や第三者に過失がある場合/ 歩行者の飛出しで対向車に衝突した場合/ 自動車の故障による事故/ 交差点内の直進車の事故/ 交差点での右左折車の事故/ 車の死角と運転手の責任/ 無免許者に運転させた者の責任/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク