嘆願書、上申書と刑事処分の関係

交通事件に限らず、一般の刑事事件の場合でも、被疑者や被告人のために、友人、同僚、知人、上司、親族、近隣の人々から、嘆願書、上申書を集めて警察、検察庁、裁判所に提出することが行なわれています。
 その形式はいろいろですが、おおむね、被疑者や被告人が今回の犯行について反省している旨と、今後の指導更生を誓い、刑の減軽や釈放を希望する旨の記載があり、末尾に署名押印を連記したものが一般的です。
 署名者の数は、まちまちですが、十数名から数百名に及ぶものもあります。しかし、これらは集める人のエネルギーと努力に比較して、刑事事件に与える影響はほとんどありません。簡単にいえば、大衆闘争を必要とするような特殊な事件を除いては、無意味であり、かつ有害とさえいえます。

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このような署名運動は、身近な人々を除いては、義理で署名するものが圧倒的に多いのが現状です。事件についてさえも理解していない人が、指導監督を誓ったからといって、その効果を期待することはできません。また、反社会的行為をしたことを多数の人々に知らせることも意味のないことです。刑事手続きは、嘆願書等に一名でも多くの署名を集めたことによって、刑を軽くしたり釈放することができるようなぐあいにはなっていないのです。意味のない署名を集めるよりは、より具体的、積極的な一名の指導者を証人とし、あるいは身元引受人とするほうがより有効的なものです。
 したがって、公判段階では、多数人の署名のある上申書、嘆願書は一括して法廷に出されても、証拠としては扱わず、裁判官の参考にする程度にとどまり、公判記録には編綴せず、雑書綴りにとじこまれるのが通例の扱い方です。
 しかし、一点だけ異なるものがあります。これは被害者や遺族から出される上申書や嘆願書です。被害者らが被告人の処罰を求めず、刑を軽くしてやってほしい旨の上申書を書いてくれますと、裁判所の量刑には非常に影響を与えることになります。
 できうれば、公判廷でその点についての証言をしていただければよいのですが、そうでなくとも、遺族であるとか、出頭できない事情もあると思われますので、紙に書いてもらうだけでも助かります。
 示談書、領収書、嘆願書のの三点を被害者から受け取れれば、刑事裁判には貴重な証拠となります。多数の人に頭を下げて、意味のない上申書や嘆願書の署名集めをするよりは、被害者に対して誠意をつくして謝罪し、弁償につとめ、こちらの気持をわかってもらって、同情の結果、書いてもらえる一枚の嘆願書のほうが、ずっと価値があるわけです。

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