交差点での右左折車の事故

交差点内の事故は、双方に過失ある場合が多く、問題が生じます。交差点を右折する場合、左折する場合、直進車との接触、後続車との接触、横断歩行者との接触など、それぞれの場合に分けて考えてみましょう。
 交差点での右折の場合は、運転者にとって最も慎重を要する場合にあたり、事故も多く、そのため道交法は種々の義務を規定し、何回かの改正もなされています。まず右折をしようとするときは、交差点手前の側端から三〇メートルの地点に達したとき右折の合図をし、自動車、原動機付自転車、トローリーバスであれば、あらかじめできるだけ道路中央に寄ったうえ、交差点の中心の直近の内側、矢印などの標示で指示されているときはそれに従って徐行しなければならず)、軽車両であればあらかじめできる限り道路の左側に寄ったうえ交差点の側端に沿って徐行しなければなりません。
 これに対し、右折車両の後方にいる車両は、合図をした右折車両の進路変更を妨げてはならないとされています。したがって、右折車が以上の義務をつくした場合、後続車が右折の合図に気づかないでこれを追い越そうとして衝突事故を起こしたとすれば、後続車に過失があることになります。
 もっとも、例外なくすべての場合に法規にしたがって右折方法をとりさえすれば、それ以上の後方安全確認義務を負わなくてもよいのだろうかという疑問が生じます。
 しかし、高遠な車両を走らせている自動車運転者としては、後方の安全を確認したうえで右折を開始した後にあっては、特に左右前方に対し注意を払うことはともかく、右折開始後も後方に注視を継続しなければならないということは、不可能事を要求することになってしまうでしょう。
 この点について、裁判例は、信頼の原則を適用して、後方の安全確認継続義務はないと言うことに、最近ではほぼ一致したようです。
 たとえば、最高裁判所昭和四五年九月二四日判決は「右折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態、その他具体的状況に応じた適切な右折準備態勢に入ったのちは、特段の事情がない限り、後方を同一方向に進行する車両があっても、その運転者において、交通法規の諸規定に従い、追突等の事故を回避するよう正しい運転をするであろうことを期待して運転すれば足り、それ以上に、違法異常な運転をする者のありうることまでを予想して周倒な後方安全確認をなすべき注意義務はない」としています。

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車両が右折する場合には、どうしても左右道路および対向道路からの直進車両と交差することになります。
 そこで、この場合の右折車と直進車、左折車の通行調整を図るため、道交法を改正して、右折車両側に他方に対する譲歩を要求しました。改正前の法三七条は、一項に直進車および左折車優先の原則を、二項に既右折車優先の原則を規定していましたが、どの時点で、 「すでに右折している」こととなるのか、一項と二項の関係等適用上の問題が多く、改正にふみきったわけです。
 改正法は、問題の多かった先入車優先の件とともに、既右折車優先の規定も廃止し、優先道路又は広路通行車、左方車の優先と、右折の場合の直進車、左折車の優先に関する規定だけを設け、比較的簡明な形に整理されるに至ったわけです。
 ですから、右折車運転者としては、まず第一に右方道路からの進入車両の有無を確認して交差点に進入すべきことはもちろんですが、交差点に先入した後であっても、そのまま右折を開始し、あるいは右折を継続するときは直進車または左折車の進行を妨げることになる場合は、交差点中心の直近内側で一時停止し、左方道路および対向道路からの直進車の進行および対向道路からの左折車の進行を妨げないように注意しなければなりません。
 交差点を左折する場合は、右折車同様に交差点の手前の側端から三〇メートル手前の地点に達したとき左折の合図をし、車両をできる限り道路の左側に寄せて徐行しなければならないし、その際交通整理が行なわれていれば信号にしたがうべきことはいうまでもありません。
 しかし、左折にあたっては、それまでの直進道路を左方に変更することから、自己の左側に併進している他の車両や左後方から接近してくる他の車両の有無を確認しないで、突然左折をすると併進車、後続車との衝突の多見性が考えられます。
 そこで、左折をするときは合図の後、適当な時間的、場所的間隔をおいて併進あるいは後続の車両の有無を確かめ、それらの車両があるときはこれらを先に通過させてから左折すべき注意義務があるといえます。
 したがって、その義務を怠ったため、安全確認をしていたならば当然発見できたのに、併進もしくは後続車両を発見することができず、接触事故を起こしたときは、左折車に過失ありということになります。
 もっとも、左折の合図後次第に車を左に寄せて徐行し、後方を確認した時点では併進、後続の車両を発見することができなかったが、左折にはいったところ左折車の動静に留意もせず意外の速度で後方から進行して来た車両と接触した場合には、左折車には過失がなく後続車両にのみ過失かおるということになります。
 たとえば、普通貨物自動車が左折する場合、左折の合図は法規どおりしたものの、左折進入する道路が狭くかつ鋭角をなしていたため、道路の左側に寄ることが困難であったので、道路左側との間に約ニメートルの問隔をおいて他の車両の進入しうる余地を残して左折したために、後方から左折車の左側を追い技いて直進しようとした自動二輪車が接触し、自動二輪車の運転者が死亡した事件について、最高裁昭和四五年三月三一目判決は、「本件のように技術的に道路左側に寄って進行することが困難なため、他の車両が自己の車両と道路中間にはいりこむおそれがある場合にも、法規どおりの左折の合図をなし、かつできる限り道路の左側に寄って徐行をし、さらにバックミラーを見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上に、車両の右側にある運転席を離れて車体の左側に寄り、窓から首を出すなどして左後方のいわゆる死角にあたる場所の車両の動静などにまで、注意する義務はない」といっております。これと同様に信頼の原則を適用したものに最高裁昭和四六年六月二五日の判決もあります。
 信号機により交通整理が行なわれている交差点での左折車は、青信号にしたがって交差点内に進入左折した場合に、横断中の歩行者と接触する事故の発生がきわめて多いとされています。そこで、運転者としては左折にあたり、横断歩行者の有無、動静に注意を払うべきことは当然のことですし、歩行者の行動には十分に留意し、減速徐行をしていつでも停止できるよう進行する注意義務があります。
 これらのことを怠って事故を起こした場合には、注意義務違反として処罰の対象となることになります。
 なお横断歩道上の通行人の生命身体の安全は、十分に保護されなければなりませんので、歩道上で事故を起こした運転者の処分は、おおむね実刑の判決を受けております。より慎重な運転態度が望まれるゆえんです。

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