交通事故から処罰までのあらまし
交通事故に対する刑事責任追及の処罰の流れは、事故現場にはじまって警察、検察庁での取調べ、裁判所での審理、刑務所への収容と移っていきます。ここでは、ごく
概略にわたって、その流れを考えてみました。
事故が発生したら、運転者は直ちに警察官に事故発生の報告をしなければなりません。その結果、警察官は捜査を開始し、現場において関係当事者、参考人から事情を聴取し、現場の検証、写真撮影等が行なわれます。ついで警察署において詳細な事情の聴取がなされ、供述調書が作成されます。当事者が重傷の場合は、病院内で供述調書が作られることもあります。警察で実況見分調書、供述調書、診断書などがまとまりますと、検察庁に事件が送致されることになります。軽微な物損事故で示談成立の場合を除いて、交通事故事件はすべて検察庁に送るのがたてまえになっています。
なお、交通違反のうち、一時停止違反や、駐車違反などの場合には、交通反則通告制度によって、警察段階だけで処分かきまり、違反者は反則金を警察に納入すれば、刑事処分を免れることになっています。
逆に、違反行為が、無免許、酒酔い、ひき逃げなどの悪質な違反による事故の時には、逮捕され身柄を留置所に拘束されることもあります。そうして三日の違捕期間にひきつづいて勾留となり、さらに一〇日間拘束が続けられることもあります。
警察での取調べが一段落しますと、事件は検察庁に送られます。ここで法律の専門家である検察官によって、もう一度取り調べられ、処分のふるいわけがなされます。起訴するかしないか、起訴しても罰金刑にするか、禁錮や懲役刑のような体刑にするかの意見が検察官によって判断されます。したがって、不可抗力のような事件、なんら罪とならないような事件、違反はあるが処罰するのは酷なような事件などは、検察官の権限によって不起訴となります。また少年事件は処分をきめずに、すべて家庭裁判所に送られます。
裁判所は検察官が起訴し処分を求めたものについて最終的な判断をなすところです。
軽微で簡易なものは、交通切符や即決裁判、略式命令などの迅速な定型的手続きで処理され、罰金の処分となります。
これに対し、重大な事件については、公判による裁判が開かれます。公判は公開で、検察官、弁護人の立会い、被告人の出頭で審理され、処分は判決の言渡しによってなされます。
処分の内容は、軽いときには罰金刑というものもありますが、その多くは禁鋼刑か懲役刑です。情状のよいものに対しては執行猶予の判決がなされ、一定の期間を定め、その期間内に罪を犯さなければ、刑に服さなくともよいことになる場合もあります。
一審の裁判に対して不服の場合は、高等裁判所に控訴して審理を求めることができます。さらに高等裁判所の判決に不服のときは、最高裁判所に上告することができます。結局三回は裁判所で審理してもらうことができるようになっています。
刑罰がきまりますと、その執行は検察官の命令によってなされます。罰金は検察庁に納めることになっています。もし罰金を納めなかったときは労役場に入れられ、一日数千円の割合で労役に服さなければなりません。禁鋼や懲役の刑は刑務所で行なわれます。禁錮刑の場合は労働させられませんが、懲役刑の場合は労働が強制されます。交通違反専門の交通刑務所もいくつかありますが、激増する違反者に対しては手狭であり数も少ないため、交通刑務所にはいれるのは初犯者などごく限られた者だけです。多くの服役者は、窃盗、傷害、恐喝などの他の犯罪者も服役している各地の刑務所に分散して収容されており、その処遇内容も他の犯罪者とあまり変わりないようです。
警察、検察庁、裁判所での刑事責任追求の流れは、以上に述べたとおりですが、これと平行して行政処分の一つである免許の停止や取消しの処分があります。これはすでに述べたように刑事責任からくるものではなく行政責任からくるもので性質は異なります。しかしその手続きは、第一線の警察官があたり、公安委員会が決定するものですから、一般には同じものと誤解しがちです。現場や警察署で調べにあたった警察官は、刑事責任関係の書類を取りまとめて検察庁に送り、行政処分関係の書類は公安委員会に送ります。事件処理の関係もあって行政処分の方が比較的に早く結論がでます。ですから免許の停止や取消しの処分を受けた運転者が、処分はこれで終わったと考えておりますと、検察庁から呼び出しがきてあわてるということもあります。
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