無免許者に運転させた雇主の刑事責任

私の知人は、ある運送会社のトラックにはねられましたが、その会社は怒らつで無免許の運転手に自動車を運転させているという噂です。現に知人をはねた運転手も無免許運転でした。この会社の経営者は厳罰に処すべきだと思いさすが、処罰できないのでしょうか。
これはいわゆる運行管理者の義務違反の問題です。
道路交通法七五条一項によりますと、「車両等の運行を直接管理する地位にある者は、当該業務に関し、法令の規定による運転の免許を受けている者でなければ運転し、又は操縦することができないこととされている車両等を当該免許を受けている者以外の者に運転することを命じ、又は当該免許を受けている者以外の者が当該車両等を運転することを容認してはならない」と規定しています。この規定に違反した運行管理者は、懲役または罰金に処せられ、両罰規定により会社または雇主等も同じ罰金刑に処せられることがあります。

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この条文にいう「車両等の運行を直接管理する地位にある者」とは、普通略して運行管理者といっています。車両等の運行事務について、その事務の目的にしたがって直接これを処理しまたは執行する者のことです。普通、自動車運送事業その他の業務に関し車両等を使用する事業において、その運行につき運転者の配置とか配車とかを計画したり、決定したり、実施したりする地位にある者で、たとえばタクシー会社等の運行課長、配車課長、車両課長あるいは営業所所長とか、百貨店の配達課長、車両課長などと呼ばれている人たちが、これにあたりましょう。しかし、その運行を直接管理すれば 足りますから、ここに掲げたような中間的な運行管理者にかぎられません、規模の小さい会社などは雇用者(雇主)自身がこれにあたることも少なくないでしょう。
しかし、この考え方の基本として、労務業務関係の一連として継続的な社会上の地位にあって運転者を直接指揮監督する立場の人に義務を課したものですから、単なる「自家用車のおかかえ運転手の雇主」とか「ドライブクラブの経営者」あるいは「未成年者に対する親権者」などは、これに含まれません。もっとも、無免許者に、その情を知りながら車を貸与すると、無免許運転幇助犯として処罰されましょう。通常、貸与幇助となりますが、無免許運転者に対し、運転の方法、技術等を指導または助言して運転させれば、指導幇助ということになります。また、無免許運転する意思のない者に、自動車の運転を勧め、それによって無免許者が運転する気になり道路で運転しますと、無免許運転教唆犯となります。この場合、運転者の運転技術の程度、運転区間の道路の状況等にかわりなく、教唆犯の罪を免れることはできません。
ところで、運行管理者が処罰されるのは、「当該業務に関し」なされた場合、つまり車両等の運行を直接管理する業務に関する場合ですから、たとえば、その運転者が休日に友人やドライブクラブの車を借りて無免許運転しても、運行管理者には責任はありません。
しかし、運行管理者は、その業務に関する場合であれば、運行することを命じた場合はもちろん、これを「容認」したときでも、その責を負わされます。「容認」とは、監督またはその行為の実現を阻止すべき地位にある者が、その行為(無免許運転)のなされることを知りながら、明示的または黙示的に承認することです。たとえば、被雇用者が無免許運転であることを知りなが ら、出かけるときに「気をつけろ」などといったり、長距離輸送トラックで運転者が疲労した際に無資格の助手が常に代わって運転することを承知していながら、運転者に同様の輸送を強制し、助手の無免許運転を黙認している場合などがこれにあたります。
以上の説明で明らかなとおり、本問の場合でも、その運送会社の経営者は、運行管理責任が適用されるか、または無免許運転の幇助ないしは教唆犯として処罰の対象になると思われます。なお、その証拠が明らかであるならば、陸運事務所に申し出て、許可の取消しその他処分を求めることもよいでしょう。しかし、その無免許運転者が交通事故を起こした場合、その経営者に業務上過失致死傷罪の刑事責 任までを負わせることは、法理上不可能です。もちろん、この場合、その経営者に民事上の損害賠償責任を追及することはできますから、これによって被害者の救済を考えたらよいと思います。

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