ひき逃げになる場合

交通事故があったとき、車両の運転者その他の乗務員は、直ちに被害者を救護しなければなりません。これをしないでそのまま現場から立ち去ることを普通ひき逃げと 呼んでいます。人身事故でなく単なる物件事故の場合でも、必要な措置をしないで逃げてしまうと、いわゆるあて逃げとなり、ひき逃げと同じように処罰されてしまいます。事故を起こした場合には、慎重に行動して、ひき逃げなどといわれないように注意しなければなりません。
では、いわゆるひき逃げ罪は、どのような要件を満たすと成立するのでしょうか。
まず第一に、車両等の交通による人の死傷または物の損壊があったときです。たとえば、接触しても全くケガがなかったり、物を損じていなければ、問題はありません。しかし、後述するように、それを確認しなければなりません。なお、人または物の被害が発生した以上は、その程度のいかんを 問いません。

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第二は、運転者に、人または物に被害を与えたという認識が必要です。全くそれに気がつかなかったならば、認識に欠けていたことになり、罪とはなりません。たとえば、酩酊運転者が自動車を運転中に事故を起こしたが、そのことに気がつかないで運転を継続した場合は、事故に対する業務上過失死傷罪などを認め得ることは格別、ひき逃げ罪は成立しないことになります。もっとも、この場合、当然気づくところを気づかなかったという場合ならば、 それは酩酊運転の度合いがはなはだしかったと認められますから、業務上過失致死傷罪としての量刑が重くなり、たとえひき逃げ罪を免れても、全体の量刑からみれば、重くなっても軽くなることにはなりませんから、いたずらに気づかなかったなどと弁解することはかえって不利となります。
また、この認識は、不確定、未必的な犯意で足ります。たとえば、自動車等の運転者が衝突したことを感知できる程度のものであれば、一般的に人の死傷または物件の損壊を生ぜしめるのが普通ですから、衝突の認識があれば、人や物の被害があったのではないかという未必的な犯意があると考えられています。裁判例に、飲酒酩酊のため、人身事故発生の認識がなか ったものとしてひき逃げ罪の成立を認めないで無罪とした第一審判決に対して、「事故の認識については、それが事故の発生を疑わせるような事態の認識をもって足り、必ずしも事故発生の確定的な認識を要するものではない」と述べて原判決を破棄した事例もあります。
第三は、救護義務は、事故が発生したら「直ちに」これをしなければなりませんから、たとえば、目的地が近いからとか緊急の用務があるとかいうような理由から、いったん目的地に赴き、ひき返してから被害者の救護措置にとりかかることは許されません。また、救護措置その他必要措置によって時間を費消した場合を除き、直ちに警察官に事故報告をしなければなりません。この場合にも、目的地に先に赴いたり、車両を修理工場に運んだり、自宅や営業所に帰るなどしますと、もはや「直ちに」といえなくなりますから注意する必要があります。ある 事件で、事故発生後約四〇分後に知人の説得によってした報告は、被告人が直ちに救護措置をとったこと、五分後に警察官が事故を知ったので応急措置は警察官において取り得た事情があった場合でも、「直ちに」報告したことにはならないとして有罪にした判決もあります。ただし、運転者自身事故によって重傷を負って失神し、病 院に収容され二、三日間昏睡または呻吟を続け、直ちに報告をなしうる状態になかった場合は、後日小康を得て他人を介せば事故報告できるようになったとしても、その時はすでに負傷者は救護され、交通秩序も回復していれば、報告義務に違反したことにはならないとされています。

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