即決裁判と略式裁判

私は、駐車禁止違反ということで交通裁判所に呼び出されました。私としては、裁判官に事情を説明しようと思っていたところ、裁判が全くないうちに罰金が定まり驚いてしまいました。違反者の中には法廷で裁判を受けている者もあるようですが、どういうことなのでしょうか。
即決裁判とは、交通に関する刑事事件の迅速適正な処理を図るため、警察官の取調べから裁判宣告までの手続を原則として一日で済ませる裁判をいいます。
ところで、ここにいう「交通に関する刑事事件」とは、道路交通法第八章の罪にあたる事件、すなわち道路交通法における罰則規定に違反した事件にかぎられ、これと同時に業務上過失致死傷など刑法その他の法令に定められた罪を犯した場合には、道路交通法違反の罪は、通常、それと併合起訴されますので、この場合には即決裁判手続にはよらないことになります。また、即決裁判は、略式裁判の場合と同様、検察官の請求によって行なわれ、罰金または科料を科するものですから、この裁判によって禁銅または懲役に処することはできません。

スポンサーリンク

即決裁判の請求については、略式裁判のそれに酷似しています。たとえば、その請求は公訴の提起と同時に書面ですることを必要とし、また、その請求に際しては、被疑者に対しあらかじめ即決裁判手続を理解させるために必要な事項を説明し、刑事訴訟法の定める手続にしたがって裁判を受けることができる旨を告げたうえ、即決手続によることについて異議がないかどうかを確かめなければなりません。そして、即決裁判に必要があると思われる書類や証拠物を、即決裁判の請求と同時に裁判所に提出することになっています。即決裁判の請求を受けた裁判所は、その事件が即決裁判をすることができないものであるか、またはこれをすることが相当でない場合については、通常の裁判にまわさなければなりませんが、そうでなければ即日期日を開いて公開の法廷で審判を開きます、法廷は、普通、裁判官と裁判所書記官が列席して開かれますが、必要があれば、検察官および弁護人は、期日における取調べに立ち会い、意見を述べることができます。
即決裁判手続においては、被告人の憲法上の権利を侵さないかぎり、検察官が差し出した書類および証拠物ならびに期日において取調べをしたすべての資料にもとづいて裁判をすることができます。この期日については、裁判長はまず被告人に対して、被告事件の要旨および自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げ、被告事件について陳述する機会を与えなければなりません。また、裁判所が必要と認めるときは、適当と認める方法によって被告人または参考人の陳述を聞き、書類および証拠物などの取調べをすることができます。
このような審理ののち、罰金または科料を科す宣告が行なわれるわけですが、このほか、刑の執行を猶予したり、没収を科したり、その他附随の処分をすることができます。この仮納付の裁判は、確定をまたたいで直ちに執行できますが、ただ正式裁判の請求をすれば仮執行はされません。そして、正式裁判の請求期間が経過すれば、即決裁判は確定し、そのときは確定判決と同一の効力を生ずることになります。
略式手続と即決手続との相違点の主なものは、その審判が、略式手続ではもっぱら書面審理によっているのに、即決手続では公判が開かれるということです。したがって、即決手続では被告人は事件について裁判官に陳述の機会があり、必要なら弁護人を依頼して立ち会ってもらえますが、略式手続では全くこのような機会には恵まれません。おそらく、本問の場合、略式手続による裁判を受けたものと思います。そして、違反者のうち法廷で裁判を受けている人たちは、即決手続によっています。
この即決手続によるか、それとも略式手続によるかは、違反者すなわち被告人が選択するのではなく、検察庁側が適宜に行なっています。即決手続の場合は、ともかく公判審理ですから、その施設や機構が整っていなければできませんので、普通は略式手続の方にまわされます。交通裁判所の場合は、いずれもできる機構になっておりますが、略式手続の方がはるかに数をこなせますから、次第に略式手続が多くなり、特に交通切符を採用するようになってからその傾向が顕著で、ほとんど略式手続の方式でやっているようです。違反して検挙された際交付される交通切符の裏側に「即決裁判・略式裁判説明書」のある場合は、即決裁判もできる裁判所にまわされることを示しています。したがって、その「申述書欄」に署名すれば、その違反者は、即決手続または略式手続のいずれによって裁判されてもよい旨を承諾したことになるのです。そのいずれの手続によるかは、検察官が定め、違反者に選択権はありません。もし、即決裁判を希望する場合には、検察官の取調べの際その旨を依頼するほかありませんが、必ずしもその希望を容れてくれるかどうかはわかりません。また交通切符の裏側に「略式裁判説明書」としか記載されていないものは、即決裁判の機構のない裁判所で裁判を受けることになりますから、略式手続によることになります。この略式手続に不満なら正式の裁判を申し立てるほかありません。なお人により略式裁判の方が簡便で入前に出ないですむので喜ぶ向きもあるようです。

交通事故での業務上の意味/ 自転車による事故の刑事責任/ 運転手の過失の認定/ 交通事故の被害者側の責任/ 同乗者の過失による事故/ 信頼の原則と危険の負担/ 交通事故の因果関係/ 過労による居眠り運転の事故/ 緊急避難での事故/ 会社から強制された疲労運転による事故/ 無免許運転の幇助と教唆/ 交通事故の捜査/ 交通事故を起こして逮捕された場合の措置/ 事故や交通違反の取調べに対する心構え/ 交通事件での黙秘権と供述拒否権/ 示談書の刑事的効果/ 不起訴処分に不服のあるとき/ 刑事裁判の手続き/ 刑事裁判を受けるときの準備/ 調書の否認/ 交通事故の証人、参考人の出頭/ 即決裁判と略式裁判/ 略式命令と不服申立/ 判決に不服のあるとき/ 刑の執行/ 執行猶予/ 再審/ 同一事件について二重に処罰されたとき/ 故意犯と過失犯/ ひき逃げになる場合/ 警察官の交通取締り/ 交通切符/ 運転免許の取消しと停止/ 運転手の雇用者の処罰/ 無免許者に運転させた雇主の刑事責任/ 好意運送による事故/ 責任共済/ 自動車保険約款の免責事項/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク