故意犯と過失犯

故意とは、一般に、ある行為をするにあたり、その行為をすることによって一定の事実の結果が発生することを認識しながらあえてすることをいい、刑法三八条一項にいう「罪ヲ犯ス意」すなわち犯意と同意義です。
これに対して過失とは、行為の結果について認識することができ、しかも認識すべきであったのに、その義務に違背し、注意を欠いたためにこれを認識しないで、その結果を発生せしめることです。
すなわち、故意の場合には、事実ないし結果の発生を認識しながら行為をするのに対して、過失の場合は、認識すべきであったのに不注意のため認識しないで行為をすることです。たとえば、自動車を運転するにあたり、運転免許証を携帯していないことに気がついたが、めんどうがって取りにいかず、そのまま運転を継続すれば、免許証不携帯の故意犯となり、これに対し洋服を着換えたのを忘れて、免許証がポケットに入っていると思い込んで自動車を運転したときは、その過失犯となります。

スポンサーリンク

過失犯とは、過失を構成要件の要素とする犯罪、たとえば過失致死罪とか過失傷害罪をいい、「法征二特別ノ規定アル場合」にのみ、処罰されることになっています。もっとも、ここに「法律二特別ノ規定アル場合」とは、必ずしも法律に明文をもって犯意の有無にかかわらず処罰する旨を規定した場合のみをいうのではありませんが、他方、行政犯を規定する取締罰則であれば、いつでも、とうぜんに「法律二特別ノ規定アル場合」に該当するというわけでもありません。結局、法に明文で過失犯を処罰する旨の規定がない場合には、その法律の立法の趣旨、条文の建前、法文の文意などを吟味して解釈すべきであるとされています。
ところで、道路交通法の場合、現行法は、過失犯を処罰すべきものには、法文でこれを明示していますから、現在は問題はなくなりましたが、旧道路交通取締法時代は明文で記載されていませんでしたから、特に道路標識違反や運転免許圧の不携帯罪について、過失を処罰すべきものかどうかが論議され、判決でもこれを認めるものと認めないものとに分かれ混乱しました。そこで、現行の道路交通法では、過失犯を処罰すべきものは、法文でこれを明示することになり、現在ではほとんど問題は起こらないようになりました。
スピード違反と場合は通行禁止・制限違反の事件では前者については道路交通法一一八条二項、後者については同法一一九条二項にそれぞれ過失犯を処罰する旨それぞれ法文で明らかにされています。したがって、双方とも過失で処罰されることはいうまでもありません。ただ、スピード違反の過失犯については公安委員会が設置した道路標識に気づかないで、指定速度を越えたような場合に適用されるのが普通です。単に知らず知らずのうちにスピードオーバーになっていたような場合には、実務上故意犯として扱われているようです。これは、いわゆる未必的故意を認定しているわけで、調書上にもおそらく未必の犯意を認めた記載になっているのではないかと思われます。
過失犯は、故意犯より一般に行為の違法性と責任が軽少であると考えられています。

交通事故での業務上の意味/ 自転車による事故の刑事責任/ 運転手の過失の認定/ 交通事故の被害者側の責任/ 同乗者の過失による事故/ 信頼の原則と危険の負担/ 交通事故の因果関係/ 過労による居眠り運転の事故/ 緊急避難での事故/ 会社から強制された疲労運転による事故/ 無免許運転の幇助と教唆/ 交通事故の捜査/ 交通事故を起こして逮捕された場合の措置/ 事故や交通違反の取調べに対する心構え/ 交通事件での黙秘権と供述拒否権/ 示談書の刑事的効果/ 不起訴処分に不服のあるとき/ 刑事裁判の手続き/ 刑事裁判を受けるときの準備/ 調書の否認/ 交通事故の証人、参考人の出頭/ 即決裁判と略式裁判/ 略式命令と不服申立/ 判決に不服のあるとき/ 刑の執行/ 執行猶予/ 再審/ 同一事件について二重に処罰されたとき/ 故意犯と過失犯/ ひき逃げになる場合/ 警察官の交通取締り/ 交通切符/ 運転免許の取消しと停止/ 運転手の雇用者の処罰/ 無免許者に運転させた雇主の刑事責任/ 好意運送による事故/ 責任共済/ 自動車保険約款の免責事項/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク