不起訴処分に不服のあるとき

検察官は、その事件について必要な捜査を終えますと、これを起訴するかどうかを決めます。ところで、検察官は、たとえ犯罪の嫌疑があっても、必ず常にこれを起訴しなければならないというものではありません。日本の刑事訴訟法は、検察官が処罰の要否を判断し、一定の事由があって起訴する必要がないと考えたときには、起訴しなくてもよいことになっています。つまり、起訴するかどうかの裁量権は、検察官の権限として認められているわけです。これを「起訴便宜主義」といい、検察官のもつ最大の権限と考えられています。
したがって、検察官としては、この権限を厳正かつ公正に行使してもらわなければなりません。もちろん、検察官はその適正 な行使に努力しているわけですが、人間の判断ですから、その判断が常に適正であるという保証はありません。そこで、不起訴処分が相当であるのに起訴したり、起訴すべきであるのに不起訴処分にするようなこともあります。

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もし不起訴処分にすべき事件を起訴した場合には、これを抑制する法的の規制はありません。その理由は、裁判になった場合、そのような事件ならば裁判所がその被告人を無罪なり執行猶予にするという期待がもてるためでしょう。したがって、不起訴にすべき事件を起訴された場合には公判で争うほかしかたがありません。また、検察官としても公訴取消しの権限をもっていますから起訴を取り下げることもできますが、日本ではどういうわけか、伝統的にこの制度を適用していません。
これに対して、検察官の不起訴処分については、つぎの二つの救済制度が設けられています。
その一に、上級官庁に対する不服の申立てです。すなわち、不起訴処分に不服のある被害者その他の利害関係人は、その処分をした検察官を指揮監督している上級検察庁の長(高等検察庁検事長または最高検察庁検事総長)に対して、その処分の取消・変更などの申立てをします。もっとも、法律上には別段の規定はありませんが、一般的に監督官の監督権の発動を求めるものとして認められています。この申立てをしますと、その処分をした検察官は、申立書に意見をつけて、記録や資料などを上級検察庁に送らなければなりませんし、上級検察庁は公正にこの事件を再審査し、申立ての理由があるときは、起訴命令をし、理由のないときは棄却の処分をします。
その二は、検察審査会に対する申立てです。被害者・告訴人または告発人などは、検察官の不起訴処分に不服があるときは、その検察官の属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会にその処分の当否を審査してもらうように申立てをすることができます。この検察審査会は、検察官の行なう公訴権の実行に関して民意を反映せしめてその適正を図るために、地方裁判所とその支部の所在地に置かれているもので、審査員は、一般国民である会社員や主婦とかといった人たちです。審査会は、記録を調べ、被害者や事件の処分をした検察官らを呼んで尋問し、審査し、「起訴相当」とか「不起訴相当」という決議をします。そして、理由を付した議決書を作成して、その謄本を、不起訴処分をした検察官を指揮監督する検事正に送付します。もっとも、これを受けた検事正は、必ずしもこの議決に従わなければならないものとはされていませんが、起訴すべきであると考えるときは、起訴の手続をとらなければならないことになっています。実務上、検察審査会の議決にしたがって起訴された事例も少なくありません。交通事故のような場合には、起訴の手続をとるか否かはともかく、被害者感情をくみ、十分慎重に検討を加えてもらいたいものです。

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