同乗者の過失による事故

同乗者の過失にも、いろいろなものがあります。一概に同乗者といっても、車掌や助手のように運転者の運転行為を補助するものもあれば、運転行為に何らの関係や責任のない、単なる同乗者もあります。また、自動車教習所の技術指導員のように、運転者の運転行為を指導し、むしろ、ほとんど運転者の行為を支配しているような同乗者もあります。いうまでもなく、運転者の運転行為またはその付随行為に関与する度合いが強ければ強いほど、一般的には責任が重くなることは当然です。したがって、原則的には、車掌は助手より責任が重く、教習所の技術指導員は車掌より責任が重いといえます。これに対して、タクシーやバスのお客さん、あるいは自家用事の単なる同乗者の場合には、直接的に運転行為の妨害となるような行為をしないかぎり、責任をもたされることは全くないといってもさしつかえないでしょう。

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まず、助手の場合から考えてみましよう。助手の場合は、自動車に同乗させることは必ずしも法規的には必要とされていません。したがって、その過失によって運転者の責任は免れることにならないというのが通説です。たとえば、「運転手が自動車を運転するに際しては、自己に於て全責任を負担するものにして、たまたま助手を同乗せしむる場合に於ても其の事実は運転手固有の責任に消長を来たすことなく、即ち運転手は運転に付ては自己の責任の全部もしくは一部を之に転嫁するを得ず、唯場合に依り其の責任の程度を定むるに付斟酌すべき関係あるに止まるものと解せざるべからず」と述べている判例があります。そこで、運転者は、たとえ助手から進行上危険がないという報告を受けたような場合でも、自ら危険の有無を調査できるときは、その報告が正確であるかどうか、はたして危険のおそれがないかどうかを確かめなければならないとされています。
しかし、他方、助手が同乗しているときには、運転者は、助手を下車させてその助力のもとに運転の安全を期さなければならない旨を判示したものもあり、運転者の注意義務はなかなか厳しいものがあるように思われます。
つぎは、バスの車掌の過失です。バスの場合は、原則として車掌を乗除させねばならないものとされ、その担当業務の内容も法規上明示されています。したがって、前述の助手の場合と異なって、裁判例にも積極、消極の両説示あります。前説によれば、乗合、バスの運転手は、たとえ車掌によって発車の合図がなされたときでも、乗除口の扉が閉じられ、乗客の転落を防止する安全装置示なされているかどうかを確かめた後、発車すべきであるとしています。後説は、これに対して、バスの運転手は車掌の合図によって発車進行することになっているから、扉を閉じるなどの転落防止装置を施すことは挙げて車掌の職務であり、運転手は発車合図があれば、特別の事情でもないかがり、これにしたがって発車進行ができるものとするものです。
しかし、最近は、後説が通説といえましょう。したがって、バスの運転手は、車掌の合図があれば、さらに運転手自らが扉の閉じた具合を点検その他の方法で確かめる必要はなく、他に危険の発生を予見できる特別の事情でもないかぎり、そのまま発車できると考えるのが相当です。そして、その場合、バスに飛び乗ろうとしたりあるいは飛び降りようとした乗客などがいて、転落して死傷しても、その責任は車掌にあり、運転手には責任がないとしなければなりません。

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