調書の否認

私は、交通事故を起こし、業務上過失致死罪で取調べを受け、起訴されました。事故後、私は逮捕されていましたし、事故のショックで頭が混乱していましたので、呆然としたまま取調官の調べを受け、その供述書に署名捺印しました。しかし、釈放され冷静さをとり戻した現在、その調書は事実とは大分違点があり、私の覚えないことまで書かれています。裁判のとき、それを否認できるのでしょうか。
これはいわゆる自白の証拠能力ないし証明力の制限の問題です。
自白とは、被告人または被疑者が犯罪事実の全部または一部について、自己の刑事責任を認める供述のことです。
ところで、自白があっても、それが強制・拷問・脅迫による自白、不当に長く抑留または拘禁された後の自白、その他任意にされたものではない疑いのある自白は、証拠とすることはできません。たとえば、警察で殴打などされたすえの自白や警察で長時間にわたる肉体的苦痛を受けた一両日後の検察官に対する自白、警察官が殴打などの暴行を加えたうえ検察官が手錠をかけたまま取り調べたなどの事情のもとにされた自白などは、強制・拷問・脅迫による自白にあたり、その証拠能力は否定されます。また、不当に長く抑留された後の自白としで、その証拠能力を否定された事例としては、一〇九日あるいは六ヵ月余後の自白があります。この「不当に長く」とは、必ずしも日時の長さだけでは決めることはできません。被告人の心身の状態など具体的事情との関連で判断されるわけですが、日本では相当長期間でないと認めない傾向があるようです。

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自白の任意性の立証方法については、裁判所が適当と認める方法で行なうことができます。たとえば、検察官が作成した供述調書の方式が合理的であること例えば、供述拒否権の告知、読聞けの実行、供述者の自署押印の存在、増減変更部分の記載の存在などや、供述調書の内容が首尾一貫しているとか合理性があるとかを疎明するやり方でもよく、必要に応じて取調べにあたった捜査官などの証人尋問によって、その任意性を立証するのが普通です。一般には、ここに述べた検察官の疎明程度で、その調書の任意性が認められてしまう場合が少なくなく、被告人にとっては不満を覚えることがしばしばあります。したがって、供述調書をとられるときは、安易な妥協をすることかく、真実はあくまで突っぱりませんと、後日裁判所に訴えてもとりあげてくれないことがありますから十分注意しなければなりません。
特に、本問のような場合、捜査官の強制、拷問、脅迫とか不当に長い抑留後の自白であるとは認められないような場合には、なおさらその調書の任意性を争うことは困難です。したがって、その調書の任意性を争っても、おそらくムダに終わると思われます。ただ、証拠能力を認められても、その信憑性は別ですから、本問の場合には、その調書の信憑力のないことを強調したらよいでしょう。そして、それが真実でないかぎり、仔細に検討すれば、供述調書の内容と客観的事実とが矛盾する個所を発見するのが常ですから、まず、客観的事実との矛盾点をつき、その調書の証明力のないことを証明するのがよいと思われます。この立証は、難しい技術的要素がからみますから、専門家である弁護士によく相談されることを望みます。

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