交通事件での黙秘権と供述拒否権

交通事故にかぎらず、あらゆる事件の捜査にあたって、何人も自己に不利益な供述は強要されません。この権利を普通「黙秘権」と呼び、国民の基本的権利の一とされています。そこで、憲法はこの権利を保障するために、強制、拷問もしくは脅迫による自白または不正に長く抑留もしくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない旨規定するとともに、何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、または刑罰を科せられないことを明らかにしています。
また、訴訟手続として、特に被疑者の場合について、法は「取調べに際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならないと規定しています。したがって、被疑者でも参考人でも取調べに際し終始黙っていてもよいし、自己に不利益だと思われることだけに沈黙を守ってもよいわけです。黙秘権を行使するかどうかは、取調べを受ける側の自由な意思によって行なうことができるのです。

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しかし、黙秘権というものは、自己負罪に関する特権として英米法で発達したもので、もともと刑事責任について自己に不利益な事実をしゃべりたがらない本人自身から供述させることは適当でないとする思想を基盤とし、また、ややもすると捜査官がいわゆる「自白は証拠の王」としての自白を強制する弊害を防止しようとする趣旨です。したがって、自己に不利益とならない事実についてまで沈黙を守るということは、必ずしも法の要請することではありませんし、憲法上の保護も「自己に不利益な供述」を強制されないという限度で保護されているわけです。つまり、被疑者がウソをいうことまでを保障したものではありません。
では、実際問題として、黙秘権や供述拒否権を行使することがはたして得策かどうかということになりますが、これは事実によりますから、一般に損得を論ずることはできません。黙秘することによって立証すべき証拠がかためられないため不起訴になったり無罪となることもあれば、黙秘権を行使したため捜査官に不利益な心証を抱かせ徹底的に捜査されて、その事件の客観的証拠がかたまったばかりでなく、余罪まで証拠がためされて起訴されてしまうこともあります。また、黙秘権や供述拒否権を行使すること自体は、憲法上あるいは訴訟上の権利である建前から、裁判所から不利益な取扱いは受けませんが、遂に自白している場合には改悛の情ありということで、被告人に有利な情状証拠となります。したがって、黙秘権の行使はマイナスにはなりませんが、プラスにはならないということになり、有罪と認定されるかぎり自白している場合にくらべれば、損になることは間違いないようです。
このような観点からしますと、一般的には、自己に不利益な事実以外は供述した方が得策であり、また、客観的な証拠によって明らかになっている場合には、不利益な事実でも自白して改悛の情を明らかにした方がプラスだということになりましょう。

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