交通切符

交通切符制度は、アメリカにおけるトラフィックチケット制を参考として、複写方式による記入によって関係各機関の事務能率の向上を図ったものです。たとえば、違反事実の記載を項目的記載方式として簡易化したり、違反事件の処理手続を警察、検察庁、裁判所の各段階を通じて統一的、能率的なものにしたりして、その検挙、処理能力を高めています。また、他方、違反者側としても迅速な裁判を受けられるようにしたものです。
この制度は、近時の自動車交通の著しい発達にともなって激増した交通事故に対処しようとして、最高裁、法務省、警察庁の三者が協議採用するに至ったものです。しかし、この方式も、いわゆる行政罰ではなく刑事罰を加えようとするものですから、形式上は刑事訴訟の手続を踏むことになり、処罰されれば前科者となります。「一億総前科者」とか「わが女房も前科者」とか風刺されていますが、このような傾向は必然的に法軽視の風潮を呼ぶことになります。交通切符制は、まだまだ多くの問題点を抱えているのが実情といえましょう。

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交通切符のもっとも普通の場合の取扱いは、おおむね、つぎのとおりです。まず警察官が交通違反があったと認めたときは、その現場で、直ちに取調べを開始し、切符の所要欄に複写で四枚同時に記入します。この際、免許証を保管し、切符一枚目表下段の欄に必要事項を記載して、一枚目を切り取り、これを違反者に渡します。それから違反者に対して交通切符二枚目現認報告書下段の供述書に署名押印を求めます。これがすむと、出頭の日時、場所を告げ、違反者は現場から立ち去ることが許されることになります。もちろん、違反事実を認める認めないは本人の自由ですし、また、署名を拒否してもさしつかえありません。
以上が一般の場合ですが、違反者が遠隔地に居住する場合には、切符の一枚目を交付しないことがあります。また、違反者が現場にいない駐車違反の場合などは、出頭の日時、場所を指定した文書が、車面ガラス等適当た個所に貼りつけられ、一枚目の切符は渡されないことになります。もし、違反者が事実を争うような場合には、警察官は、切符二枚目の報告書欄に、現場見取図や事実証明に必要な事柄を記入したり、別個に供述書を作成したりします。このほかに、酒酔い、酒気帯び運転の鑑識カードとか速度違反、重量違反の測定記録表が報告書欄の空白部分に契印のうえ貼付されることもあります。なお、行政処分の上申を必要とする事件の場合には、保管した免許証にもとづいて、切符四役目裏の免許の種類および年月日欄、過去一年以内における行政処分の前歴欄に、それぞれ所要事項が記入されます。
このような処置が終わると、検挙した警察官は、保管した免許証とともに、切符二枚目から四枚目までを一括して司法警察官に提出することになります。これを受けた司法警察官は、記入状況を点検したうえ、所属長の決裁を受け、これを常駐警察官に引き継ぎます。
常駐警察官は、交通切符一枚目をもって出頭してきた違反容疑者に対して必要な取調べを行ない、本人であることを確認して、切符の一枚目から三枚目までを検察官に送致することになります。
交通切符の送致を受けた検察官は、記載の内容に誤りがないかどうかを確かめ、違反者を取り調べて、弁解その他の供述を聞き、必要のある場合は、切符と同形同大の供述調書を作成して、切符二枚目に添付します。それから、略式命令または即決裁判手続の説明をして、申述書の署名押印を確認し、乙票裏の起訴状欄に所定の記載をして公訴を提起するわけです。略式手続または即決裁判によることに異議を申し出れば、検察官は、従前の起訴状用紙を用いて公判請求をします。少年事件の場合には、家庭裁判所へ送致することになります。
裁判所は、公訴された事件について、略式裁判または即決裁判をし、有罪となれば、違反者は、略式命令謄本または即決裁判結果通知書を渡されますから、これを検察庁の仮納付の窓口に提出します。そこで、違反者は、徴収金を即納し、即納しない場合は仮納行金納付告知書を受けとり、最後に常駐警察官から保管証と引き換えに運転免許証を受けとって帰ることになります。徴収金を即納しなかった違反者は、仮納付金納付告知書の期日に納付しなければなりません。
ところで、交通切符に不服があるときは、常駐警察官または検察官の取調べの際にはっきりその旨を述べるようにします。そうすれば、検察官は、その事件を略式命令手続または即決裁判手続によって処理することをやめ、在宅事件として、後日ゆっくり捜査することになりますから、その際十分申し開きをしたらよいでしょう。もちろん、否認したり、略式や即決手続に応じないからといって、免許証を返還されないというようなことはありません。ただし、後日詳細な取調べを受けるため一回ないし数回呼出しがかかることは覚悟しなければなりません。その捜査の結果、不起訴処分になることもありましょうし、どうしても起訴すべきだと検察官が考えれば、通常の公判請求をしてきますから、この場合には、裁判官に被告の正当性を主張し、これを認めてもらい、無罪の宣告を受けるように努力するよりほかありません。
しかし、一般の場合には、違反者は、多少の不服があっても、何回も取調べを受けたり、公判で争う時日、労力あるいは経費などを考えて、有罪であることを承諾し罰金を納めているのが実状のようです。これは理論上まことにおかしなことですが、聞くところによればアメリカなどでも「私は無罪である。しかし、有罪を主張する」という妙な主張で罰金を支払っていることが多いということです。日本でもこの傾向が見受けられるようになりましたが、たとえ罰金額が軽少だからといって、交通切符のような簡易な手続をとる場合には、捜査官としては十分被疑者の声を聞き、真実を発見して、冤罪で処罰をすることのないよう、小さな正義の実現に努めてもらいたい ものです。

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