事故や交通違反の取調べに対する心構え

交通事故における被疑者に対する教訓事項を掲げると、おおむね次のとおりです。
(1) 本人の特定および身上関係。まず、氏名・住所・本籍・生年月日・年齢・職業などを始め、家族・生活状態・資産などが取り調べられます。
(2) 経歴および前科・前歴関係。出生から現在に至るまでの経歴、特に学歴、職歴、賞罰、位記勲章などと、前科・前歴の有無、もしあれば、その時・場所と具体的内容、処分結果など。特に、交通違反や交通事故の前科・前歴。
(3) 免許の有無および運転経験。運転免許の有無・取得の年月日・場所および種類・番号、運転歴または運転回数、従来運転した車両の種類・地域・期間・目的など。運転経験皆無の場合は、将来における運転取得の意思の有無、運転技術修得の時期・方法などについての意見。
(4) 加害車両の状況。車両の種類・番号、その保有者の氏名、住所、強制および任意保険契約の有無・番号・保険者・保険会社など。
(5) 運転開始時およびその前後頃の状況。運転の目的・出発地・目的地・運転径路、同乗者の有無、あればその氏名・住所・乗車場所、積載物の有無・種類・数量など。被疑者の肉体的・心理的状況として、酩酊・睡気・疲労・疾病・煩悶などの有無・種類・程度。特に、酩酊のときは、その飲酒の日時・時間・場所・種類・量、ふだんの酒量、飲酒目的・飲酒を共にした者の氏名・住所、酩酊度についての自己判断など。
(6) 事故発生直前の状況。道路の状況、特にその幅員・舗装・乾湿・歩車道の区別、センターラインや区分帯・軋道敷・横断歩道・信号機・道路標識その他の障害物の有無・状況など。
被害者(または被害車両)を発見したときの相互の位置、双方の速度・進路・その他の状況。その他事件に応じ、障害物などを発見した位置など。
危険を感知したときの自己と相手方との双方の住設、危険防止の措置をとったとぎの双互の位置、その予防措置の内容(警音器の吹鳴・急制動・徐行・方向転換・合図など)。
(7) 事故発生時の状況。衝突地点・部位・程度、相手方の転倒した地位・状況など。
(8) 事故発生直後の状況。被害結果についての認識の程度・内容、停車位置、被害確認の有無、被害者の救護、警察への報告の状況。ひき逃げのときは、その理由・逃走経路など。
(9) 注意義務と過失の内容。いかなる注意義務があり、どのような過失によって事故が発生したと考えるかという被疑者自身の意見が求められる。不可抗力・否認などの場合には、その主張する理由・根拠・事情など。
(10) 事故後現在に至るまでの状況。被害者救済の有無・状況、たとえば示談の有無・内容、その他被害者に対して行なった事情(見舞・治療費負担・葬儀参列・示談交渉)免許の取消・停止の有無・状況。
(11) 事故に対する感想など。事故を起こしたことについて反省の有無・内容、将来車両を運転する意思の有無など。
大体以上のとおりですが、一ヵ月未満の比較的簡単な事件(東京地検では、これを「簡易事件」といっています)の場合は、省略される分野も少なくありませんし、事件によって、その事件の特殊性から必要な事項を重点的に取り調べられるのが普通です。通常、(5)ないし(8)がもっとも詳しく具体的に調べられます。その場合、すでに作成されている実況見分書(または検証調書)の図面によって取り調べられていることが多いようです。

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では、被疑者として取調べを受けるとき、どのような心構えで、どのような点に注意したらよいでしょうか。
捜査官を恐れないこと。普通の人は、警察や検察庁というと、たいへん恐ろしいところと思いがちですが、捜査官といえども普通の人間ですから、恐れる必要は毛頭ありません。堂々と、主張すべきは主張し、弁明すべきは弁明してよいのです。特に、恐れのあまり、事実に反することや自分の意にそわなレことを供述する被疑者がありますが、そのようなことのないように注意しましょう。
事実をありのまま述べること。もちろん、被疑者は、いわゆる黙秘権があり、自分の責任を回避または軽減するため、すべてにつきあるいはある事実につき黙秘したり、控え目に述べたりすることは自由です。しかし、積極的にうそをいうことまでを法が認めているということではありませんし、道義上も許されないでしょう。真実ほど強いものはありませんし、真実を語るかぎり、いかに捜査されても矛盾はでてきません。これに対して虚偽の事実を述べると、他の真実の供述についても疑いの目をもってみられるので、かえって不利益となり、犯情が重くなり、量刑に悪い影響を与えることにもなります。他に動かぬ証拠があるような場合には、特にうそをつくことは不得策です。実際上は、自己の刑事責任に不利益な影響を及ぼす事項でどうしても供述したくない場合はともかくとして、そうでなければ、できるだけ供述に応じた方が得策といえるようです。
冷静な態度を失わないこと。被疑者は、取調べ中興奮したり、泣いたりすることが少なくないようですが、できるかぎり冷静な態度で終始しましょう。冷静さを失い、あらぬことを口走ったりして、捜査官にそれが真実であると思われたり、興奮して捜査言といい争い、心証を害して徹底的にしぼられたりするのを見聞することがあります。
検察官も血の通った普通の人間ですから、いたずらにこれと争うと、捜査官は情感の気持を抱いて取り調べますから、被疑者にとり不利益なようにすべてを判断し、結局真相を見誤らせ、必要以上の責任を負わされることにもなりかねません。捜査官におもねる必要は全然ありませんが、無用に感情を刺激することは得策とはいえません。
調書の内容を確かめること。取調べの際には、普通、供述調書(供述縁取書)が作成されます。この調書は、検察官の事件処理や起訴された場合の裁判官の証拠として採用される重要なものですから、ないがしろにすることはできません。したがって、取調べがすんだ際、その調書を読んでもらい、はっきりしないときは見せてもらって、確かめることもできます。そして、その内容が事実とちがっていたり、供述とくいちがって記載されていたりした場合には、その誤りを指摘して訂正してもらいます。もし、捜査官が、調書を読んでくれなかったり、見せてくれなかったり、あるいは訂正してくれなかったりした場合には、署名・捺印を拒否してかまいません。しかし、あなたの供述どおり記載されているならば、署名・捺印した方がよいと思います。
供述調書を読んでもらったとき、全然まちがいではないが、供述とはニュアンスがちがっておかしいと感ずることがあると思われます。ときによっては、意味が反対に受けとられるような場合があります。それは、捜査官が意識的に有罪となるように巧みに調書に折りこんで記載するためです。そのような場合には、供述とは趣旨がちがうからと主張して遠慮なく訂正してもらいます、ただし、供述調書は、供述書とはちがいますから、被疑者の供述をその表現したとおり記載するものではありません。被疑者の述べたことばどおり記載しますと、調書が冗長になったり、同じことがくり返されたりして、かえってわかりにくくなるので、併述の要旨を簡明に記載することになっているのです。したがって、問題は、その記載内容が被疑者の供述の趣旨と合致しているかどうかということです。供述の趣旨さえまちがいないならば、そのまま認めてさしつかえないわけです。

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