無免許運転の幇助と教唆

無免許者に自動車等を運転させた者は、通常の場合、無免許運転の幇助または教唆として処罰されます。
幇助とは、一般に他人の違法行為に加担して、これを容易ならしめることをいいます。刑法六二条一項には「正犯ヲ幇助シタル者ハ従犯トス」と定め、正犯の刑に照らして減軽されますが、従犯として処罰されます。ただし、拘留または科料のみに処すべき罪の従犯は、特別の規定がなければ罰せられません。幇助は、すでに犯意を生じている正犯者に対してなされる加担行為をいいますから、いまだ犯意を生じていない者に犯罪を実行させる場合には教唆となります。物質的幇助にかぎらず、前言したり、激励したりして、正犯者をして犯意をいっそう強 固ならしめるような精神的幇助であっても従犯が成立します。

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無免許運転幇助の態様として通常認められている形態に、指導幇助と貸与幇助とがあります。「指導幇助」というのは、無免許運転者に対して、運転の方法、技術などを指導したり助言して運転させる場合です。その場合、指導幇助者が運転有資格者であったり、その車に同乗している必要はありません。しかし、単なる同乗者で、指導助言をしない者は、幇助者とはなりませんから、処罰されることはありません。
「貸与幇助」というのは、無免許運転者に、その者が無免許であり車を運転することを知っていながら、自動車を貸与した場合です。いわゆる「ハンドル貸し」といって、運転席を譲り無免許者にハンドルをまかせた場合も、貸与幇助となります。貸与幇助についても、貸与幇助者が同乗していることは必要ではありません。
問題となるのは、運転免許を有する者が、刑事未成年者(一四歳未満の者)の無免許運転を指導した場合ですが、共犯の従属性については本犯の行為が違法であれば足り責任は必要としないのですから、是非善悪の弁別のある刑事未成年者の場合には、幇助犯が成立すると考えられます。
つぎに、運転免許をもたない者に対して、その情を知りながら、自動車の運転をすすめ、その者が運転する気になって運転すれば、無免許運転教唆となります。この教唆も、共犯の一種で、まだ犯意を生じていない他人をして一定の犯罪を実行する意思を生ぜしめることをいいます。刑法六一条一項に「人ヲ教唆シテ犯罪ヲ実行セシメタル者ハ正犯に準ス」と規定され、正犯と同様の処罰を受けることになります。この無免許運転教唆の場合、その者の運転技術の程度、運転区間、道路の状態等にはかかわりありません。
では、無免許運転者に運転させたところ、その運転者が事故を起こした場合、その責任はどうなるでしょうか。
この場合、無免許運転を幇助または教唆した者も業務上過失致死傷罪に問われるかという問題ですが、具体的なケースで十分検討しなければなりません。業務上過失犯の責任を負わせるためには、その幇助または教唆した者自身が業務上過失犯としての過失をしたことを要件とし、また、その過失に因って致死または致傷という結果が発生したものであることを要します。この立証はなかなか困難でありますから、無免許運転の幇助犯または教唆犯といっても、それらの者が業務上過失犯としての責任を問われた例は、きわめて稀です。裁判例としては、自動車運転経験の全くない者であることを知りながらその者に自動車を運転させ、傷害事故をひき起こした事例について、業務上過失傷害罪を認めた例があります。

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