運転手の雇用者の処罰

雇用者の責任としては、現行の道路交通法では、次の三とおりの規制がなされています。
雇用者としての義務に違反した場合  その一は、雇用者の義務を直接規定したもので、同法七四条がこれにあたります。同条一項には、雇用者(車両等の運転者を雇用する者)は、雇用運転者(雇用者が雇用する車両等の運転者)に、道路交通法または同法施行令、施行規則に規定する車両等の安全な運転に関する事項を遵守させるようにつとめなければならない旨規定しております。また、同条二項には「雇用者は、雇用運転者がスピード違反することを誘発するように時間を拘束した業務を課したり、またはそのような条件を付して悪用運転者に車両等を運転させてはならない」としております。さらに、同条三項によると、雇用者は、雇用運転者が、車両等の運行によって泥土、汚水などを飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないように、車両等に厄よけ器を備えるなどの必要な措置をとるよう要請しています。

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上記の三項のうち、一項および三項については、いわゆる訓示規定であって、罰則規定は設けられていません。二項については、国家公安委員会または公安委員会がこの二項の規定する時間を拘束する業務として定める業務を課し、またはこれと実質的に同一の結果となる条件として定める条件を付して雇用運転者に車両等を運転させた場合は、その雇用者が三月以下の懲役または三万円以下の罰金に処せられることになっています。したがって、この二項は、公安委員会が「時間を拘束する業務」または「これと実質的に同一の結果となる条件」を定めていないかぎり適用されません。また、それが定められて、雇用者が事実上速度違反を誘発するような業務を課したり、条件を付したりしても、その公安委員会が定める業務または条件に該当しないような業務を課しまたは条件を付しているかぎり、処罰の対象とはなりません。しかし、この場合、服用者が、速度違反を奨励し、明らかに速度違反をしなければ行なえないような業務命令を出した場合に、運転者が現実に速度違反を行なえば、その速度違反についての教唆犯または幇助犯が成立することがありえましょう。
その二は、運行管理者の義務として規定しているものです。すなわち、運行管理者(車両等の運行を直接管理する地位にある者)は、当該業務に関して、運転者に対して、社会的に危険性の高い無免許運転、酒酔い運転、過労運転等を命じたり、または運転者がこれらの危険な状態で車両等を運転することを容認してはならないとしています。この運行管理者は、中間的な運行管理者であると服用業務者であるとを問いませんから、それが同時に雇用者である場合があります。規模の小さい会社は、むしろその方が普通でしょう。この規定に違反しますと、三月以下の懲役または三万円以下の罰金に処せられます。
その三に、両罰規定として雇用者の責任を問うているものです。これをわかりやすくいえば、従業者である運転者が特定の違反行為をしたとき、それが会社とか服用者の業務に関してなされた場合には、その会社や服用者に対しても、運転者の違反行為にしたがって、その罰則規定による罰金刑または科料に処するというものです。
問題は、会社や雇用者が、その従業者の違反行為を防止するために、その業務に対し相当の注意および監督を尽くしたことが証明された場合には、この責任を免れることができるかどうかということです。この点、その旨を規定している法規もありますが、道交法一二三条には明文の規定はありません。しかし、この条文は、事業主としての会社や使用者が、行為者のその違反行為を防止するために相当の注意および監督を尽くさなかった過失の存在を推定した規定と解するのが相当ですから、会社や使用者側において、相当の注意および監督を尽くしたことを証明すれば、その責任は問われないと思われます。しかし、相当な注意を払いあるいは監督を尽くしていないならば、たとえその違反が雇用者側の知らないうちに行なわれたからといって、その罪責を免れることはできません。

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