交通事故の証人、参考人の出頭

私は、交通事故を目撃したので、被害者に同情して現場にきた警察官に話をしたところ、翌日事情を聴取したいからと呼出しがあり、警察に出頭して説明しました。これで済んだと思っていたところ、今度は検察庁から呼出状がきました。私としては、知っていることは全部警察で話をしたし、忙しい身体でもありますので、非常に迷惑しております。どうしても出頭しなければならないのでしょうか。
捜査段階において捜査当局が行なう人的証拠のうち、被疑者以外の者を参考人と呼び、公判段階において裁判所が取り調べる被告人以外の人的証拠を証人といいます。参考人といい、証人といい、証拠の保全、有罪の当否あるいは量刑の決定などにおいて、きわめて重要な役割をいたします。交通事故事件において、これに該当する者は、被疑者、目撃者、同乗者、親権者、雇用主など、その事件を知っている者か、加害者、被害者のうちいずれかに関係のある人たちです。
参考人の場合には、法律上出頭の義務はありません。しかし、捜査官は、国家の機関として犯罪の成否について捜査すべき義務があり、かつ、その目的を達するための必要な取調べをすることができることになっています。もし、参考人の供述が得られないときは、容疑事実がゆがめられたり、つかめなかったりして、正義を実現し、ひいては秩序ある社会を築いていけなくなるでしょう。また、被疑者は、参考人の不出頭または供述拒否のため、きわめて不利益な立場に追いやられることがあります。したがって、できるかぎり高い見地から、進んで自己の経験した事実を正しく提供することは、道義的あるいは社会的責任といってよいでしょう。いわば、国民の義務として、できるかぎり捜査に協力されることが望ましいのです。

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しかし、日本の捜査では、あまりにも安易に参考人を呼び出す嫌いがあることは事実です。はなはだしいときは、事故の目撃者で、実況見分に立ち会わされたほか、警察で補充捜査のため二回、検察庁で捜査検事と公判立会検事による取調べのため二回、公判で一回などというようなこともあります。呼出しを受ければ、参考人はおおむね半日をつぶすことになりますから、この点、捜査関係者も国民の負担する多大な時間および労力のロスを考えて慎重な取扱いをしてもらいたいものです。
本問の場合も、まさにその一例ですが、まず、呼出しをした係官に電話をして、「警察での供述どおり間違いがなく、そのほかには別に話すことはない」旨連絡されたらいかがでしょう。場合によっては電話一本で足りることもあります。もし、検察庁の方で、それでも証拠上ぜひ出頭してくれということでしたら、あなたの都合のつく日時を打ち合わせるなり、あるいはあなたの自宅なり、もよりの交番まで出張のうえ取り調べられたい旨を話してみたらどうかと思います。その程度の便宜は、検察庁でもとりはからってくれるはずです。
ところで、その話合いがつかず、出頭もしくは供述を拒んだ場合で、しかも、検察官が犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認めて、その出頭および供述をさせたいと思うときは、いわゆる証拠保全のための証人尋問の請求を裁判官にするかも知れません。この場合、その請求を受けた裁判官は、証人尋問に関し、裁判所または裁判長と同一の権限を有し、以下に述べる刑事訴訟法総則の証人尋問に関する規定が準用されます。したがって、正当な事由がなく出頭しないときは、罰金または拘留またはその双方を併科されることかあります。
つぎに、裁判の段階において、証人として喚問された場合、原則として、出頭する義務があります。もし、証人として召喚を受けながら、正当な理由がなく出頭しない者は、罰金または拘留に処せられ、またはその双方が併科されますし、召喚に応じない証人に対しては、さらにこれを召喚したり勾引することもできることになっています。そして、勾引状の執行を受けた証人を護送する場合または引致した場合においては、必要があるときは、一時もよりの警察署その他の適当な場所にこれを留置することもできるようになっています。もし、公判期日に召喚されたとき、病気などの理由によって出頭できないときは、一定の様式を備えた診断書などを提出しなければなりません。これを怠ると、一応正当な理由がないものと推定されます。
また、証人は、原則として、宣誓および証言の義務があります。つまり、証人が、正当の理由がなく、宣誓証言を拒んだときは、過料と費用賠償、および罰金もしくは拘留またはその併科という刑罰の制裁があります。
もっとも、宣誓の趣旨を理解できない者には、宣誓をさせないで尋問することになっており。この場合には宣誓拒否や偽証の罰は科せられません。また、証言は、自己や近親者が刑事訴追を受けたり有罪判決を受けたりするおそれがあるときは、これを拒むことができます。その他公務員、国会議員、国務大臣、医師、弁護士、公証人、宗教家などは、一定の事由があるときは、同じく証言を拒否することができます。
いずれにしても、目撃者の場合、証人として出頭し、宣誓のうえ証言する義務を負います。なお、他方、証人は、原則として旅費、日当、宿泊料の請求権があり、このことは召喚によって出頭した証人でも、公判において取り調べた在廷証人であっても同様です。また、警察や検察庁から呼出しがあった場合でも、通常、旅費・日当を支払ってくれますから、必要な方は請求したらよろしいでしょう。

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