同一事件について二重に処罰されたとき

私は、軽自動車を無免許運転したということで略式命令で罰金刑を言い渡され、罰金を納めましたところ、その後再びこの無免許運転を業務上過失傷害罪の事件と共に略式起訴され、同じく略式命令で罰金に処せられました。無免許運転については、日時、場所その他全く同じです。同じ事件について何回も罰金をとるのは不当だと思いますが、どうしたらよいでしょうか。
同一事件がいわゆる二重起訴され、ともに有罪の判決を受け確定してしまったような場合の措置としては、通常、非常上告という手続がとられます。
非常上告とは、判決確定後、その審判の法令違反を発見した場合に認められる救済手続で、最高裁判所が管轄し、その主眼は法令解釈の統一にあり、必ずしも事件の具体的救済を目的とするものではありません。そこで、一定の場合以外は、非常上告の判決は、被告人に効力を及ぼしません。 したがって、申立権は、検事総長にのみ認められています。しかし、事実上救済されるのが普通です。

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申立ての対象は、再審の場合と異なってすべての確定判決について、すべての法令違反を理由とすることができます。実作法の違反のみでなく、手続法の違反も合まれます。しかし、非常上告は、抽象的に法令の解釈適用を審査するものですから、個々の裁判における前提事実認定の誤りのため、とうぜん、法令違反の結果をきたしたような場合は、理由とはなりません。
申立ての方法は、検事総長が最高裁判所に対して、非常上告申立書を差し出して行ないます。被告人には申立権がありませんから、このような場合には検察庁の総務課に申し出て善処を要望するほかありません。もちろん、被告人の申出がなくても、検察庁が法令違反を判決確定後発見すれば、非常上告します。非常上告が行なわれるのは、普通、同一事件を誤って起訴して二個の略式命令が確定した場合のほか、罰金千円とすべきところを科料千円の刑を科した略式命令が確定した場合や、行為の当時廃止されていた罰則を適用されたりした場合です。
このように、同一の犯罪事実について、二重の裁判がなされ、その一方が非常上告によって破棄された事例は、実務上時おり見受けられます。
その一例を掲げてみましょう。被告人Aは、軽自動車を無免許で運転し、熊本簡易裁判所より罰金二千円に処する旨の略式命令がなされ、その後正式裁判請求期間(二週間)が経過して確定しました。ところが、裁判がなされた後、いまだその確定しない以前に、熊本区検から再び同一事実であるその無免許運転が業務上過失傷害の犯罪事実とともに併合して略式命令を請求されました。裁判所もこのいわゆる二重起訴に気づかず、Aに対して道路交通取締法違反および業務上過失傷害罪として罰金三千円に処する旨の略式命令が出され、これもその後正式裁判請求期間の経過によって確定しました。
そこで、この二重起訴事件に対し、非常上告が行なわれましたが、最高裁判所は「さきに起訴略式命令のあった犯罪事実と同一の犯罪につき、同一の簡易裁判所に、他の犯罪事実と共にさらに起訴略式命令の請求があった場合には、後の起訴略式命令の請求の公訴事実中、さきに起訴略式命令のあった犯罪事実については、すでに公訴提起されているのであるから、刑事訴訟法第四六三条により通常の規定に従って審判をした上、二重起訴の部分につき同法第三三八条第三号により判決を以て公訴を棄却し、その余の犯罪事実についてのみ有罪の言渡しをすべきであったにも拘わらず、当該略式命令がなされ確定したときは、これを破棄し、二重起訴の部分について公訴を棄却し、他の犯罪事実についてさらに刑を言渡すべきである」と訓示した例があります。
また、非常に珍しい事件がありました。これは、被告人の追越し禁止違反という道路交通法違反の犯罪事実について、佐賀簡易裁判所に、昭和三九年九月二八日佐賀区検の検察官Mから略式命令の請求がなされ、翌二九日同区被の検察官Fから再び略式命令の請求がなされました。簡裁は、いずれも即日略式命令を発布したので、同一犯罪事実について、右二八日付けと二九日付けの二個の略式命令が発せられたわけです。
ところが、この二連の略式命令は、同年一〇月二七日に同じ郵便配達員によって一緒に送達されたので、正式裁判請求期間の経過によって、二連とも同年一一月一一日に確定されたのです。したがって、被告人としては、おそらくそのうち一通は写しぐらいに思ったのではないかと思われますが、ともかく二重起訴が双方とも確定してしまいました。
このように、同一簡易裁判所が、同一犯即事実について、日を異にして二重に略式命令を受けたため、これに対応した日付の略式命令を二重に発したところ、二個の略式命令が同時に送達され、ために確定も同時であった場合には、非常上告により、後日付の略式命令を破棄し、刑事訴訟法三三八条三号によって公訴を棄却すべきものであるとされました。つまり、被告人は、後日付けの略式命令による罰金は支払わなくてよいというわけです。

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