刑の執行

罰金を納付期限までに納付しないときは、検察官は、督促状その他適宜の方法によって、その納付を督促します。数回督促しても納付しない場合には、納付義務者に対して、納付の資力があるときは強制執行し、納付の資力がないときは労役場留置の収監状が発せられます。実際には、罰金を滞納していると検察庁の係官が収監状をも って、いわゆる暁の急襲をされ、身柄を引っぱっていかれます。その場合でも、すぐ罰金を支払えばその収監は取り消されます。あいにく手許になければ労役場留置ということになります。いずれにしても収納しなければならないものですから、ビクビク毎日を送るよりも早く納めてサッパリした方が気がきいているといえましょう。ただし、罰金の場合は、税金とちがって延滞金をとられることはありません。ただ、強制執行を受けた場合、その費用は滞納者の負担とされ、民事訴訟に関する規定に準じて、執行と同時に取り立てられます。なお、罰金の消滅時効は三年、科料は一年となっています。
以上のように、いずれにしても罰金は支払われなければなりませんから、早く納付してサッパリした気持になるのが良策といえましょう。

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つぎに、財産刑の場合は、ほとんど罰金ですが、時に科科のときもあります。罰金は、その最も少ない額が千円で、最高額はそれぞれ法規で明らかにされています。科料というのは、千円未満のものをいいます。これら徴収金の執行は、国の収入金手続として、その会計法における一般例にならい行なわれます。ただ、財産刑の執行は、自由刑が非代替的の性質があるのに対して、代替性かおりますから、第三者による納付(代納)が許されたり、遺産に対する執行も行なわれます。また執行の方法として、分割納付や納付延期等も認められ、納付義務者の便宜を図っています。ただ、実情は、郵送の場合にかぎり分割納付が認められているようです。徴収金を納付しないときは、検察官の命令によって強制執行されたり、納付資力がなければ、労役場に留置されたりします。この労役場は、監獄に付設され原則として懲役受刑者の取扱いを受けますから、自由刑の執行に似ています。
裁判手続が終わり、有罪の判決が言い渡されても、その刑が執行されないか、または不完全に執行されたのでは、裁判の目的は達成されないことになります。つまり、刑の執行は、刑事裁判のしめくくりとして重要な意味をもっています。
この裁判の執行とは、裁判の内容を国家の権力的行為によって実現することをいいます。したがって、執行の段階に至ると、原則として裁判所はもはや関与しないで、検察官およびその指揮のもとにある執行機関が、これを行ないます。
裁判の執行は、主刑および附加刑の執行のほか、追徴・没収・控訴費用等刑に附随する処分や、過料・費用賠償など刑とは別の制裁の処分の執行があり、また勾引状・勾留状・差押状・捜索状・鑑定留置状などの令状の執行もあります。しかし、何といっても、その主なものは、刑の執行です。この刑の執行は、自由刑(懲役・禁鋼・拘留)の執行と財産刑など(罰金・科料・没収・追徴・過料・没収・訴訟費用・費用賠償または仮納付)の執行に大別することができます。
交通事故事件で自由刑に処せられる場合は、通常、禁鋼刑です。禁鋼は懲役とちがって、監獄に入っても定役を課せられないのが特色ですが、本人が希望すれば仕事をすることもあります。これに対して、交通違反で悪質または前科の多い場合に、短期ではあれ自由刑に処せられるときは、懲役刑となります。これは、法律でそのように定められているからです。この自由刑の執行は、検察官が必ず執行指揮書によって指揮します。すでに身柄を拘束されているものについては、自由刑の確定次第、検察官は、その者が在監する監獄の長に対して、その執行を指揮します。不拘束、つまり在宅中の者については、刑が確定したときは、検察官から呼出しがあり、同行が求められ、本人であることが確認されたうえで、監獄の長に引き渡されます。もし、同行に応じなかったり、期日に出頭しないときは、収監状が見せられ、勾引のうえ収監されることになります。
罰金・科料の場合は、検察庁から納付告知書が送られてきますから、その納付期限までに、指定された場所に罰金を納めれば足ります。郵送でもかまいません。納付期日まで支払えないときは、納付延期の許可を受けるか、一部納付するかをしなければなりません。
納付期限内に納付しない場合には、納付義務者が個人であって納付の資力があるとき、または法人であるときは強制執行され、また、個人で納付の資力がないときは労役場留置の収監状が発せられます。もっとも、罰金については裁判確定後三〇日内、科料については同じく一〇日の間、本人の承諾がなければ、労役場留置の執行をすることはできません。この労役場留置は、監獄に付設された施設に拘禁されて労役に服するもので、その取扱いも懲役受刑者に適用される規定が準用されます。
刑の執行は、裁判が確定した後に行なわれるのが原則です。一般に、確定とは、裁判がもはや通常の上訴(控訴・上告・抗告)またはこれに準ずる不服の申立によって争うことができなくなった状態をいいます。しかし、罰金刑で仮納付の判決があったときは、直ちに執行することができます。この制度は、罰金を言い渡す場合に、判決の確定(言渡しから二週間後)を待っていては、その執行が不能または著しく困難になるおそれがあるときに、罰金に相当する金額をかりに納付することを判決と同時に命ずることです、そして、この制度を略式命令手続に利用したものがいわゆる在略式です。つまり、任意出頭に応じてきた被疑者をそのまま検察庁にとどめておき略式命令を請求し、裁判があると直ぐそれを被告人に告知するやり方です。なお、交通事件即決裁判手続法による仮納付の裁判も直ちに執行できますが、被告人の正式裁判の請求があった場合にはできないことになっています。

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