交通事故の捜査

私は、交通違反の現場で、警察官に事実をいったのですが、どうしてもとりあげてくれず、警察署まで連行されたうえ、調書をとられました。その調書も警察官が一方的に押しつけたものですが、大事な約束があったため早く帰宅しなければならなかったので、やむなく署名捺印しました。このような場合、どうしたらよいでしょうか。
交通違反でも交通事故でも、その取調べは一般の犯罪の捜査の場合と別段変わりはありません。すなわち、刑事訴訟法や警察官職務執行法などの規定にもとづいて行なわれます。
捜査の方法には、被疑者の身柄を拘束して行なう強制捜査と身柄を拘束しない任意捜査とがありますが、交通事件については任意捜査によるのが原則です。ただ、重大な事故事件の場合やひき逃げなど逃亡のおそれのある場合あるいは黙秘権行使により氏名が明らかでない場合など、事件によっては強制捜査によって取り調べられることがあります。
任意捜査でも強制捜査でも、被疑者は、自己に不利益な供述を拒む権利がありますから、しゃべりたくなければしゃべる必要はありませんし、否認したければ否認してもさしつかえありません。また、警察官が一方的に押しつけたような調書を認める必要はもちろんありませんから、このような場合は署名捺印を拒否したらよいでしょう。

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任意同行である場合には、被疑者が同行を拒否すればそれを強制されることはありません。しかし、後日通常逮捕または緊急逮捕されることがあります。また、供述を拒んだり否認した場合にも、強制手続に切りかえられるおそれがあります。
したがって、他に緊急の用事などがあるような場合には、住所、氏名などを明らかにするとともに、後日出頭する時間を明示して了解を求めます。また、捜査に手間がかからないというのであれば、その時間を協定し、時間がきたらすぐ帰してもらうようにあらかじめ了解を受けたらよいと思います。
そのような努力をしても、捜査宮が認めてくれず、強制捜査をするというのならば、容疑がある以上いかんとも仕方ありません。この場合は、もはや早く帰宅するなどということはあきらめて、強制捜査かどうかを確かめて、自宅および弁護士に逮絡したうえ、それなりの方針を考えるべきです。そして、自己の主張をまげたりせず、場合によっては黙秘してがんばるほかないでしょう。事実に相違することを認めたり、一方的に押しつけられた調書に署名捺印したりしてはなりません。職務上緊急の理由があるからといって、真実でない調書を作成され、これが証拠となって、あとあと裁判においても真実が認めてもらえず、位く泣く刑に服するような例も少なくないようです。
そして、捜査官が勾留請求するようでしたら、その手続の際、検察官に釈明し、検察官が聞き入れないならば裁判所に真実を吐露して釈放してもらうようにします。できるかぎり、逮捕されたら直ちに弁護士に連絡してもらい、その活動を開始してもらうのがもっともよい方法です。
本問の場合、警察署まで連行されたといわれますが、おそらく法律的には、任意同行を求められたのではないかと思います。事故現場では、街頭でさわかしく調書もとかませんし、ヤジ馬も集まったりして取調べを受ける側も恥ずかしい思いをするものです。したがって、普通、警察署やもよりの交番まで任意同行を求められ、そこで取調べを受けることになります。
つまり、本問の場合、任意同行ですからこれを拒否することもできるわけですし、もし捜査に手間どるようでしたら、理由を述べてその場では一応帰宅することを交渉してもよかったと思います。いずれにしても、不本意な調書をとられて、これに署名捺印する理由はなかったと思われます。しかし、もはやすでに調書をとられ、一応証拠ができてしまったのですから、今後の検察庁での取調べや、起訴された場合、公判においてその内容を否認し、あわせてその調書の証拠能力や信憑力のないことを主張して真実を立証するほかありません。

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