警察官の交通取締り

私は、タクシーの運転手ですが、走行中時々交通取締りの警察官から停車を命ぜられます。忙しいときや急いでいるときは閉口しますが、停車を命ぜられたとぎは、理由のいかんを問わず停車しなければならないのでしょうか。また、警察官の質問には必ず答えなければならないのでしょうか。
警察官が職務執行として行なう自動車運転者に対する停止要求と職務質問およびいわゆる自動車検問については、実務上しばしば問題となっています。
警察官が任意処分として走行中の自動車を停止させる場合は、普通、次の三つの場合です。
その一は、法規に明文があって停止させることができる旨を規定している場合です。例えば
車両等の運転者が無免許運転、酒気帯び運転、過労運転などの禁止規定に違反して車両を運転していると認められるとき。この場合、警察官は、その車両を停止させ、かつ、その運転者に対して運転免許証の提示を求めることができます。
車両の乗車、積載、牽引についての危険を防止するため特に必要があると認められるとき。
この場合には、警察官は、その車両を停止させるほか、その運転者に対して危険を防止するため必要な応急の措置をとることを命ずることができます。
整備不良車両に該当すると認められる車両が運転されていると認められるとき。この場合、警察官は、その車両を停止させ、その運転者に対し、自動車検査証や臨時運行許可証、軽自動車届出済証等の提出を求め、かつ、その車両の装置について検査することができます。道路交通法以外の法規にも、同じように明示しているものがあります。例えば、火薬類による災害の発生を防止するため特に必要があると認められるとき。
この場合、警察官は、火薬類を運搬している自動車または軽車両を停止させ、その車両により火薬類を運搬している者に対して運搬証明書の提示を求め、もしくは法定の検査や災害発生防止のために必要な応急措置をとることを命ずることができることになっています。

スポンサーリンク

このように、法規に明文で規定されているときには、警察官の権限として行なうものでありますから、その職務執行が適法であり、これらの規定に該当する場合、運転者は車両を停止し、その他法定の措置をとられることを甘受しなければなりません。
しかし、これらの場合であっても、警察官が実力を行使して運転を阻止することまでを認めた趣旨ではありません。ただ、自動車運転手席ドアを両手でつかむ程度のことは、停車させるための必要妥当な措置として正当な職務執行として認められています。また、警察官の停止命令その他にしたがわない場合には、現行犯として刑事訴訟手続により検挙され、それぞれの罰 則規定によって処罰されることもありうるでしょう。なお、その運転を継続することが警察官職務執行法五条の要件に該当する場合には、同法によりその行為を制止されることがあります。いずれにしても、そのような場合には、停車して、警察官の指示にしたがうのが相当です。
その二は、警察官職務執行法の規定に該当する場合です。同法二条によると、警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者またはすでに行なわれた犯罪について、もしくは犯罪が行なわれようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができることになっております。
そして、その場で、この質問をすることが本人に対して不利であり、または交通の妨害になると認められる場合には、警察官は、質問するために、その者に対して付近の警察署、派出所または駐在所に同行を求めることができます。もっとも、この場合、刑事訴訟に関する法律の規定によらないかぎり、身柄を拘束され、またはその意に反して警察署などに連行されたり、答弁を強要されたりすることはありません。
また、警察官は、犯罪がまさに行なわれようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発することができますし、また、もしその行為によって人の生命もしくは身体に危険が及び、または財産に重大な損害を受けるおそれがあって急を要する場合には、その行為を制止することもできることになっています。
その三は、道路交通法違反取締りのため、あるいは自動車強盗その他重要な犯罪の予防検挙のために行なういわゆる自動車検問の場合です。この自動車検問については、適法性があるかどうか、また、その法的根拠は何かについて実務上大きな問題となっています。下級審判決のなかには、警察官職務執行法二条一項の要件を備えているために職務質問をなしうる場合以外の自動車検問は、法的根拠を欠くため違法であるとして、その際生じた公務執行妨害罪の成立を否定した事例もあります。

交通事故での業務上の意味/ 自転車による事故の刑事責任/ 運転手の過失の認定/ 交通事故の被害者側の責任/ 同乗者の過失による事故/ 信頼の原則と危険の負担/ 交通事故の因果関係/ 過労による居眠り運転の事故/ 緊急避難での事故/ 会社から強制された疲労運転による事故/ 無免許運転の幇助と教唆/ 交通事故の捜査/ 交通事故を起こして逮捕された場合の措置/ 事故や交通違反の取調べに対する心構え/ 交通事件での黙秘権と供述拒否権/ 示談書の刑事的効果/ 不起訴処分に不服のあるとき/ 刑事裁判の手続き/ 刑事裁判を受けるときの準備/ 調書の否認/ 交通事故の証人、参考人の出頭/ 即決裁判と略式裁判/ 略式命令と不服申立/ 判決に不服のあるとき/ 刑の執行/ 執行猶予/ 再審/ 同一事件について二重に処罰されたとき/ 故意犯と過失犯/ ひき逃げになる場合/ 警察官の交通取締り/ 交通切符/ 運転免許の取消しと停止/ 運転手の雇用者の処罰/ 無免許者に運転させた雇主の刑事責任/ 好意運送による事故/ 責任共済/ 自動車保険約款の免責事項/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク