自転車による事故の刑事責任

最近、自転車と歩行者との間の事故が激増しています。その理由は、自転車(特に子供用の自転車)の普及率が高くなり、また、サイクリング車のようにスピードのでる車が多くなったことからでしょう。特に、最近は舗装道路がふえてきたので頭などを強く打ちつけるためか、死亡事故も珍しくありません。
自転車による人身事故は、業務上過失犯になりません。これは、自転車の運行行為は、定型的な危険性がないから、刑法二一一条にいう業務にはあたらないからです。つまり、業務上過失犯とするには、定型的危険性のあることが必要なわけですが、自転車の運転は、自動車および原動機付自転車の場合のように免許制度をとっていないこと。自転車は、原動機を用いないで脚力によるため、機構上大した高速度を出しえないこと。ハンドルさばきが容易であり、障害物を避けるのに便利であること。などの理由によって、定型的危険往なしとされているのです。

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そこで、自転車事故の場合は、通常、重過失致死傷罪か単なる過失致死傷罪とされ ます。もし通常過失の場合ならば、傷害罪のときは二万五千円以下の罰金または科料に処せられるに過ぎませんし、この過失傷害罪は、いわゆる親告罪ですから、被害者側の告訴がなければ処罰されることはありません。また傷害致死罪であっても五万円以下の罰金だけですから、いわゆる体刑に見せられることはありえません。しかし、重過失罪の場合には、致死・傷害の場合を問わず、業務上過失致死傷の場合と同様、三年以下の懲役または五万円以下の罰金に処せられます。そこで、自転車運転による事故の場合には、その過失が重過失であるか通常過失であるかというその認定のいかんによって大きな差異がでてくることになります。
では、刑法二一一条後段にいう重大ナル過失、すなわち重過失とは、どういう意味でしょうか。それは結果が重大であるという意味ではなく、運転者がわずかの注意を払いさえすれば、事故の発生を容易に予見して事故を未然に避けることができたのに、怠慢によってこれを予見することができなかったことをいっています。要するに、著しい注意義務の違反のある場合といえましょう。これを具体的にいえば、たとえば、酷酎して運転したとき、酔気のため正常な運転ができないおそれがあることを認識しながら運転を継続したとき、踏切通過の際一時停止または安全を確認しないで運転したときなどの場合はもちろん、前方不注意とか追い越し不注意などの場合も、通常、重過失と認定されるでしょう。実務上においても、大部分の事例が重過失致死傷罪として起訴され、処罰されています。したがって、自動車事故の場合のように業務上過失致死傷罪の適用はありませんが、重過失致死傷罪として、同じく刑法二一一条の適用となり、適用条文には差異がないことになります。ただ、量刑上においては、自動車事故の場合にくらべてずっと軽くなるのが普通で、ほとんどが罰金刑でまかなわれ、禁鋼刑に見せられることはきわめて稀のようです。なお、その刑事手続も、自動車事故の場合と全く同じで、刑事訴訟法の規定によることはいうまでもありません。

交通事故での業務上の意味/ 自転車による事故の刑事責任/ 運転手の過失の認定/ 交通事故の被害者側の責任/ 同乗者の過失による事故/ 信頼の原則と危険の負担/ 交通事故の因果関係/ 過労による居眠り運転の事故/ 緊急避難での事故/ 会社から強制された疲労運転による事故/ 無免許運転の幇助と教唆/ 交通事故の捜査/ 交通事故を起こして逮捕された場合の措置/ 事故や交通違反の取調べに対する心構え/ 交通事件での黙秘権と供述拒否権/ 示談書の刑事的効果/ 不起訴処分に不服のあるとき/ 刑事裁判の手続き/ 刑事裁判を受けるときの準備/ 調書の否認/ 交通事故の証人、参考人の出頭/ 即決裁判と略式裁判/ 略式命令と不服申立/ 判決に不服のあるとき/ 刑の執行/ 執行猶予/ 再審/ 同一事件について二重に処罰されたとき/ 故意犯と過失犯/ ひき逃げになる場合/ 警察官の交通取締り/ 交通切符/ 運転免許の取消しと停止/ 運転手の雇用者の処罰/ 無免許者に運転させた雇主の刑事責任/ 好意運送による事故/ 責任共済/ 自動車保険約款の免責事項/

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