盗難の場合の車両保険金

車両保険契約のうち、自動二輪車および原動機付自転車については、盗難による損害は不担保という条件で契約されていますが、この二つの車種以外の自動車の契約については、盗難担保が原則です。ただし「保険契約をする自動車について、盗難の心配はほとんどないから、盗難は不担保でもよい」ということであれば、そのような契約(盗難不担保特約)もできることになっていて、保険料もそれだけ安くなります。
 盗難不担保特約が締結されている場合には、当然、盗難による損害は、保険金支払いの対象となりません。
 自動車保険約款車両条項1条1項には「当会社は衝突・接触・墜落・転覆・物の飛来・物の落下・火災・爆発・盗取その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車およびその付属品について生じた損害を車両条項および一般条項に従い、てん補する責に任ずる」と記載されております。
 そこで、偶然な事故による損害という点からいえば、被保険者が占有権を喪失する場合について考えると盗難はもちろんのこと、差押え・徴発・没収・詐欺・横領などはすべて保険金支払いの対象となるようにも考えられますが、差押え・徴発・没収、さらに詐欺・横領によって生じた損害は、車両条項2条の8号および9号で免責とされているため占有権の喪失については、結果的には盗難損害だけが支払いの対象となるわけです。
 「盗取」とは、刑法上の窃盗・強盗をさすものです。「窃盗」とは、不法領得の意思をもって他人の財物を窃取することであり「強盗」とは、暴行・脅迫をもって他人の財物を強取することです。
 「不法領得の意思」が、窃盗・強盗罪の要件であることは、通説・判例の支持するところですが、いわゆる無断一時借用は、単なる占有の侵害であって損得の意思はないところから一応「盗取」とはいわれません。しかし「損得の意思」とは「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用しまたは処分する意思」とされており、しばらく利用したうえで廃棄する場合はもちろん、利用もせず、放棄・破壊のみの意思で盗み出すのも領得の意思と解されます。また、遠方の地に運んだもので、一時使用とはとうてい認めることができないような場合には、不法領得の意思があるものと解されています。中には、不法損得の意思がないというためには、 「その物の使用後所持者に返還すべき確実な方法を講ずる用意のあることを必要とする」とする判決もあります。
 したがって、領得の意思のないことが客観的に立証される場合等を除き、使用窃盗も窃盗と解することとなります。

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一般に、事故が発生したときに保険契約者および被保険者の履行しなければならない義務については、一般条項11条に規定されていますが、盗難事故については、特に同条1項3号で損害の防止・拡大を防ぐために「自動車およびその付属品が盗取された場合には、遅滞なく、その旨を警察官に届け出ること」と定められています。
 そして、被害品発見のための捜査に協力し、また保険会社に事故通知を行なって、打合せのうえ、必要があれぼ懸賞広告や品ぶれのチラシ配布等の手配をすることにもなります。
 また、盗取した犯人が検挙され、盗取されていた間に損害が生じたのなら、犯人に損害賠償請求の意思表示を行ない、その権利の保全に努めなければなりません。
 盗取されることによって生じた損害には、通常、被保険者の占有権喪失による損害のみではなく、盗難中にその自動車に生じた衝突損害や火災損害も含まれます。
 ただし、盗難期間中の代替車両使用のための費用とか、得べかりし利益の喪失については、てん補の対象とされていません。
 故意または重大な過失の問題については、車両条項の2条に「当会社は下記各号の事由によって生じた損害をてん補する責に任じない、次に揚げる者の故意または重大な過失、ただし、保険の目的を運転中の者の重大な過失を除く、保険契約者・披保険者・保険金を受けとるべき者もしくはこれらの者の法定代理人または保険の目的を使用しもしくは管理する使用人」とあり、運転中の運転者の重大な過失による損害は、有責として保険金が支払われますが、それ以外のこの項に記載された者の故意や重大な過失による損害は免責として保険金が支払われないことを定めています。
 そこで、自動車を路上に駐めて置いた場合について考えてみますと、保険契約者であるのか、被保険者であるのか、あるいは保険の目的を使用する使用人であるのか、いずれにしても車両条項2条1号のどれかに該当することになるわけですから、もしエンジンキーはつけっぱなしでドアもロックせずに通常行なうべき注意を怠り、かつ、無警戒の状態で放置したならば、とうぜん盗取されることが予測できるような場所に長時間放置したために盗まれたということであれば、この場合には重過失による損害であり、しかも運転中とはいえませんから、同条項によって免責とされることになり、保険金は支払われません。

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