任意保険の種類

一口に自動車保険といわれるもののなかには、強制保険である自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)と任意の自動車保険(狭義の自動車保険)とがありますが、任意保険にはつぎの種類(担保種目)があります。
保険の目的である自動車が、偶然の事故によってこうむる車両自体の損害に対して保険金を支払う財産保険(物保険)の一種です。
保険の目的には、道路運送車両法にいう自動車はもとより、原動機付自転車やトロリーバスまたは道路外で使用される車両も含まれ、また、その付属品も含まれます。
 保険事故は、いわゆる例示的包括危険担保方式(オール・リスク担保方式ともいいます)を採っていますから、列挙危険担保方式(列挙責任主義)とはちがって、約款に規定されている免責事由や約款上の義務に違背した場合など保険金を支払わないとする条項に抵触しないかぎり、あらゆる偶然の事故がてん補の対象とされています。
 すなわち,衝突・接触・墜落・転覆・物の飛来・落下・火災・爆発・盗取など約款に例示されているものだけでなく、広く偶然な事故と相当因果関係のある直接損害はすべて含まれます。
 損害保険の原則とされる「直接損害てん補の原則」や「利得禁止の原則」は、当然自動車保険にも適用されますから、保険金ないし損害額は事故により保険の目的自体について生じた物理的損傷については、事故の時および所における時価を基準として算定されます。したがって、事故によらない車両検査や整備点検費用はもちろん、休車損害や事故処理の経費などの間接損害は担保されません。また、修繕費が損害額となりますから、車両の格落ち損害も認められません。

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車両保険は、適正な保険金額をもって契約しなければなりません。もし保険金額が保険価額(保険の目的)の時価に充たないときは、一部保険といわれ、保険金は保険金額と保険価額との割合によって算定されます。そして、保険金額が時価を上回るときには、超過保険といい、超過部分は無効となります。
そこで、保険の目的の全損の場合には、保険金額か保険価額のいずれか低い方を限度として、その全額が支払われます。分損、すなわち保険の目的の損傷が技術的に修繕可能であって、経済的にも修繕をすれば足る場合には、事故発生直前の状態に復するために、その損傷修繕に要する費用(損害防止費用・引損救助費用や修繕所までの運搬費および仮修繕費が加算されます)が損害額となり、これが契約上所定の免責金額を超過した場合にかぎり、その超過分のみが支払いの対象とされます。
 また、車両保険では保険事故により保険金額の5分の4をこえて保険金が支払われると、保険契約が終了しますがそれ以外の場合には何回保険金が支払われても、保険金額は減少しません。
 通常、車両保険の被保険利益は、所有者利益を建前とし、自分が所有または使用する車両について保険契約をしますが、自動車ディーラーの所有権留保やリース業者からの賃貸借やモーターローン、自動車抵当法による抵当権設定など、債権保全などの必要上、ユーザーが債権者のために(他人のために)保険契約をしたり、債権者が保険金請求権に質権を設定したりします。
 車両保険のウェイトは、急激な賠償保険の発展により小さくなってきていますが、修繕費の上昇や事故頻度の増加などと関連してその重要性は決して低下したとはいえないでしょう。
 対物賠償責任保険は保険の目的である自動車の所有・使用・管理に起因して他人の財物を損壊し、法律上の損害賠償責任を負担したとき、その賠償損害が保険会社の承認をえて確定した場合に、保険金が支払われる責任保険です。
 対物賠償損害の対象は千差万別で、自動車、自転車、積荷、通行人の衣服、所持品、犬、植木などの動植物、電柱灯火、橋桁、建物、門塀、商品、什器家財など広範囲にわたりますが、自動車の所有・使用・管理に起因した事故と相当因果関係のある損害であることを要します。これら保険金支払いの対象となる損害は、単に有形損害で支出を余儀なくされ、現状回復に必要性・合理性、相当性のある積極的財産損害に止まりません。したがって、制限的ではありますが、格落ち損害あるいは休業または休車中の喪失利益損害や代替車両賃借料などの消極的損害も含まれます。
 対人賠償責任保険は自動車の所有・使用・管理に起因して、車の内外を問わず他人の生命または身体を害し法律上の損害賠償責任保険(自賠責保険)またはこれに代わるもの(責任共済、自家保障など)の支払額をこえる部分に対して保険金が支払われるもので、上積み保険とよばれています。もし自賠責保険(または責任共済)を付けなければならない車両で、自賠責保険が無保険であった場合にも、自賠責保険で支払われるであろう部分を控除して上積み部分を支払う、いわゆる足切り支払いをします。
 保険金額は、1名あたりてん補限度額と希望による倍数の1事故あたりてん補限度額が定められる方式になっています。
 自賠責保険は、自動車の運行に関連する対人賠償損害を担保するものですから、「所有・使用・管理」に起因するものを担保する任意保険の方が広範囲の担保といえます。しかし、自賠責保険は被害者救済の建前から、免責事由が被保険者の悪意の場合にかぎられ、また被害者の直接請求権(被害者請求が認められていますが、任意保険では、記名被保険者自身や被保険者と同居の親族、被保険者の業務に従事中の従業員に対する賠償責任や、さらに無免許運転や酒酔い運転中の事故などは免責とされているほか、被害者の直接請求権は認められていません。
 事故の際の緊急措置の費用すなわち被害者の応急手当・護送・診察治療・看護その他の費用については、保険会社の事前の承認がなくても、また後日賠償責任のないことが判明した場合でも、自賠責保険と同様に担保されます。
 しかし、保険金については、自賠責保険とはちがって、定型化ないし定額化された処理方法はとられないで、個々のケースに応じた細かい積上げ計算によって算定され、また過失相殺などの適用も検討して、社会的衡平の見地から社会通念上妥当な賠償額が査定されることになっています。
 対人賠償は、加害者の資力確保を通じて被害者を保護するという公共的な面をもち、最も社会性の強い種目です。最近は高賠償金額時代といわれるように、賠償思想の普及にともない賠償金額も高騰を続け、保険金額も高額化しています。そして、日本の自動車保険は賠償中心の欧米先進国型へ急速に変貌しつつ、保険会社の引受能力・採算性維持とも関連して、多くの問題を投げかけています。
 賠償保険の対人・対物に共通して、被保険者の範囲は記名被保険者のほかに、その同居の親族で自動車を使用中の者と、記名被保険者の承諾をえて自動車を使用中の者(許諾被保険者)が含まれ、これらの者を総称して「被保険者群」といいます。
 また、正当な法律上の賠償金のほかに、損害防止軽減に必要または有益な費用、共同不法行為者などに対する損害賠償請求権 の保全・行使に必要な費用や上記の対人事故緊急措置費用もてん補されますし、さらに保険会社の書面による同意をえれば「争訟費用」すなわち訴訟費用、弁護士費用、仲裁・和解・調停に要した費用などが、原則として保険金額の枠外で担保されます。もし賠償金額が保険金額をこえる場合には、保険金額の賠償金額に対する割合により支払われます。
 なお、保険金額は何回保険金を支払っても自動復元されます。
 搭乗者(運転者・同乗者)傷害保険は、保険の目的たる自動車の運転者・車掌・運転補助者その他正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者が、事故によって傷害をこうむった場合に、保険金を支払う傷害保険で、被保険者は無記名不特定です。
 この傷害保険は、自動車保険の付加担保で単独では引き受けることはできません。必ず車両・対人・対物いずれかの基本保険契約のあることを条件とし、同一保険証券で付保しなければなりません。
 賠償保険で免責とされる運転者や、運行補助者・記名被保険者・その同居の親族や業務中の従業員または保有者(損害責任の主体として運行支配と利益の帰属する者)には、高速道路での衝突やムチ打ち症など搭乗中の事故に備えて、搭乗者傷害保険又は交通事故傷害保険も欠かせない防衛手段となってきています。
 以上、任意保険としての自動車保険の担保種目のあらすじをのべましたが、賠償保険については自動車を特定して付保するものと免許証をもつ人を特定して付保するものとがあり、保険料の支払方法は、年払いまたは一時払いの保険と分割払いの保険とがあります。

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