自然消耗などによっておきた事故での車両保険金

車両は、元来、損耗していく機械ですから、自然に消耗したり、機械として、故障の生ずることは、車両として、とうぜんに備わった性格ともいえますから、このよう な損害は、「偶然な事故」とはいえず、担保されません。このような車両の性質上、当初より予測しうる必然的に生ずる損害について、車両条項3条4号〜7号に免責規定がおかれています。同様の理由によって、工作車、耕運機、機械装着車が保険の目的となるときは、それぞれの特約に、同趣旨の規定があります。
 このほか、特段の規定はありませんが、車両に備わった機能を無視して生じた場合は「偶然な事故」とはいえない場合があります。
 車両条項3条4号に「保険の目的に存在する欠陥または摩滅、腐しょく、さび、その他の自然の消耗」はてん補の責に任じないと規定されています。このうち摩滅以下の事項は、いわゆる自然の消耗といわれ、法定免責損害で、車両の通常の使用の過程で生ずる部品の摩滅、腐しょく、さび、シートの色あせ、車体のゆるみ、またはこれらに同種、類似の自然の消耗自体を免責としています。しかし、この自然の消耗に起因して、別の事故を誘発した場合には、その事故によって、拡大した損害についてまで免責とする趣旨ではありません。約款の建前が、包括担保方式であることからもとうぜんの結論です。約款も、旧約款と異なり、これらの事由によって生じた損害までも免責とはしていません。前述の趣旨からいっても、自然の消耗ではない摩滅、たとえば、他物との接触によって、バンパーが摩滅した場合とか、腐しょく、さびのうち強酸類が車体に触れてボディーパネルが腐しょくした場合などのように、外来、急激かつ偶然の事故による腐しょく、さびは、てん補する趣旨であると解されます。

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保険の目的に内在する欠陥は、自然の消耗と同条項の免責規定により、てん補されません。これは内在瑕疵といわれ、車両の設計上、製造上、材質上を問わず、その車両自体が潜在的に保有している瑕疵をさします。車軸が、材質上の瑕疵によって、折損したとしても、車軸損害はてん補されず、拡大した転落損害は、てん補されることになります。ただし、この場合には,自動車の生産者ないし販売者等に対して瑕疵担保責任(生産物責任)の迫及が可能になる場合があります。
 車両条項3条7号は「タイヤに生じた損害」を免責としています。タイヤは、自動車の消耗部品であり、材質も傷みやすく、日本の道路事情からいっても、通常の使用過程で損害を生じやすいものです。タイヤのみに損害を生じても偶然の事故とはいい難く「通常生ずべき損害」として、免責としたものです。
 したがって、自然の摩耗たると異常摩耗たるとを問わず、パンクや、他物との接触による損害であっても、タイヤに単独に生じた損害は免責とされます。火災もしくは盗取によって、タイヤに損害が生じた場合、または車両の他の部分が同時に損害をこうむった場合には、タイヤの損害もその他の部分の損害とともにてん補されます。
 車両条項3条5号で「偶然な外来の事故に直接起因しない保険の目的の電気的・機械的損害」を免責としています。機械としての自動車につきまとう、いわゆる「故障損害」を免責としたものです。
機械的・電気的損害の発生原因は、保険目的の内在的瑕疵、管理不全、規定能力以上の酷使、正常な使用方法の違反等によって生じますが、約款は、外来の事故に起因する機械的、電気的損害は免責損害より除外して、担保します。したがって、外来の事故とは何を指すのかが問題となります。
 外来の事故とは自動車の通常の使用方法、運行の間に、自動車が機械として完全であれば生じない事故を指し、そのような用法に従って用いられている間に、自動車に内在する欠陥、規定能力の超過によって生じた損害は外来の事故による損害とはいえません。ここでいう通常の用法とは、その用法を継続することが正当な用法(操作方法)でなくとも、その操作自体が通常予定されている方法であればれば足ります。通常の用法に従っても機械的、電気的損害の生ずるような状態の管理不全車を用いて、機械的、電気的損害の生じた場合は、外来の事故による損害とはいえません。
 操作ミスについていえば、ギヤチェンジを誤って、前連中に後退のギヤを入れようとして、ミッション内部にチッピングを生じた場合には、外来の事故といえますが、上り坂で一時停車し発進するまでの間、長時間にわたってサイドブレーキを使用せず、ハーフクラッチの状態にしたため、あるいは、これを何回も行なった結果、クラッチが摩耗した場合、または長時間、低速ギヤの状態でアクセルをふかしたため、ミッション内部のギヤに損害を生じた場合、駐車中、ライト、ラジオをつけたままにして、バッテリーがあがった場合には、外来の事故とはいえません。
 これらの機械的損害が外来の事故を誘因として生じた場合であっても、外来の事故と相当因果関係の範囲にある場合は、てん補されますが、外来の事故との間に因果関係の中断があると、中断事由発生以後の機械的、電気的損害は免責となります。
 機械的・電気的損害、自然の消耗などは、拡大損害をひき起こす可能性があります。いずれの場合にも、拡大損害は免責とされませんが、免責される損害との分岐点が問題となります。免責される損害は自然の消耗、機械的・電気的損害の生じた単体部品ではなく、機能部品とされています。自動車は機械ですから、一つの単体部品が独立に存在するのではなく、機能体として組み合わされた単位で運命をともにするのですから、とうぜんともいえましょう。
 車両条項3条6号に「車上にない保険の目的の一部に生じた損害」を免責としています。自動車保険は、自動車が一体として、運行・管理されているときに生ずる危険を基礎として担保するのですから、部品が修理などの都合で分解されている間に、部品自体に生じた損害などは、もともと自動車保険でてん補を想定した損害ではないのです。ただし、走行中に、ホイール・キャップがはずれて逸失したり破損した場合には、そのはずれたこと自体が事故であってこの条項とは無関係に、てん補されるものと解されます。
自動車保険の保険てん補の前提の一つに、車両が通常の用法に従って用いられることがあります。保険の目的の性能を無視して使用している間に生じた損害は、そもそも偶然の事故とはいえず。その間に損害を生じてもてん補されません。この前提を「保険契約の担保条件」といい、約款に明示のものと黙示のものとがあります。担保条件としては、車両自体が通常の用法に堪える正当な機能を有すること、車両の機能を無視した用法に用いられてはならないこと、車両の運転者が適格であること、用法自体が違法でないことなどがあります。

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