無免許運転での事故による車両・賠償保険
車両条項・賠償責任条項ともに、その4条1号によって「自動車が無免許運転者によって運転されているとき」に生じた損害は免責とされます。
無免許運転が免責とされる理由は、つぎのように考えられます。
自動車保険では、船舶保険における堪航性や航空保険における耐空性と同様に堪走性が要求されます。自動車の通常の運行に不可欠な要素たる堪走性は、保険契約上保険者のてん補責任発生の前提あるいは担保たるものであり、これを欠く事由の発生した場合は、その事由の生じた時以降、その事由の継続する間の事故について、保険会社はてん補責任を免れることになります。
自動車保険における保険会社の危険負担発生の前提ないしは担保の形態としてつぎの三つがあげられます。
(1) 自動車を運行する者が適当な能力・技量を有すること。
(2) 自動車が安全に運転し得るように整備されていること。
(3) 自動車の運行自体が適法であることです。
つまり、自動車および運転者が安全な運行に適することを前提として保険契約がなされるのですし、また、保険が被保険者・保険会社相互の信頼によって成り立つ制度であることからみてもこのことは当然でしょう。
そして、この堪走性の確保のため、運転
者の能力・技量を公に認められた一定水準以上に制限したものが車両条項ならびに賠償責任条項のそれぞれ4条1号の規定ということです。
無免許運転者は、その運転自体法律で禁止されている者であり、抽象的な堪走性の欠訣として免責とされています。したがって、かりに運転技術が一般の免許証所有者より優れていたとしても本条項により免責とされます。保険上での無免許運転とは、つぎのように、広く道路交通法上の無免許運転・無資格運転・条件違反運転を含みますが、必ずしも道文法上の無免許とは一致しません。
道路交通法の解釈上も、無免許運転となるものは、下記のとおりです。
公安委員会の、いずれの運転免許も受けないで、自動車を運転した場合。運転免許取消処分に違反して運転した場合。運転免許の仮停止を含む効力停止処分に違反して運転した場合。運転免許失効後に運転した場合。第一種当該免許によって運転できる自動車の種類以外の自動車の運転、政令で定める大型自動車の運転資格を欠く場合、大型免許を受けた者で20歳に満たないものが大型自動車を運転した場合、当該第二種免許、牽引第二種免許がなく、旅客自動車、旅客用車両を運転した場合等いわゆる異種免許運転。 牽引されるための構造・装置を有する車両(ただし、重被牽引車両)を牽引する場合に、牽引免許を受けないで当該牽引自動車を運転した場合。国際運転免許証所持者が、当該免許証によって運転することができるとされている自動車等に違反して運転した場合。国際運転免許証所侍者が、当該免許証の有効期間(1ヵ年)経過後に運転した場合。国際運転免許証所持者が当該免許証に係る自動車等の運転を禁止されている場合に違反して運転した場合。仮免許を受けた者が、当該仮免許について指定された自動車の種類以外の自動車を運転した場合。 道路交通法等改正の経過措置規定に違反して運転した場合。
道路交通法では、運転者に免許を与えるにつき、運転者の身体の状態または運転の技能に応じ、その者が運転することができる自動車等の種類を限定し、その他自動車等を運転する
について必要な条件を付すことがあります。
たとえば、眼鏡使用や身体障害者に対する自動車の大きさ、必要な装置等自動車の限定、特殊免許における運転できる車種の限定、特殊免許における運転できる車種の限定等がそれです。
条件付免許の条件を欠くことは、自動車の安全な運転に必要な要件を欠くということであり、自動車保険契約の前提を破るものと考えられます。しかし、条件違反の場合にすべて本項の無免許運転とすることは酷と思われる場合もあります。したがって、条件違反の場合は一応堪走性を欠く程度に重大な条件か、また、事故も悪質か否か検討し、場合によっては有責となるものもあるでしょう。
仮免許の場合も実際にはまずないことですが、交通頻繁な道路における運転中の事故、免許所侍者の不同乗中の事故の場合どう扱うかといった問題があります。このような場合は、まず本項の免責規定の趣旨を考え、仮免許ということ自体そもそも不完全な運転能力の程度を示すものであること、そのような状態下で運転中の事故と、公に免許をえている者との事故を同一に扱うことの不合理性、道交法にいう無免許運転とは運転技能に習熟している者でも公に免許をうることを要し、また、免許を受けている者でもその効力につき停止されている状態下の運転を含んでいることを考えれば、結論はおのずから明らかになると考えられます。
道路交通法は道路外については適用されません。「道路」とは、一般交通の用に供する道であり、具体的には高速自動車国道・一般国道 ・都道府県道 ・市町村道です。したがって、工場構内・土木作業場・工事現場といった地域内での無免許運転・無資格運転・条件違反は、道路交通法上の処罰の対象とはなりません。
作業現場内での道路交通法の適用に関する裁判例としては、道路舗装工事のため県道の片側を通行止めにし工事用のロードローラーをその閉鎖された工事区間内で無免許運転者が運転中に人身事故を発生させ、道路法46条・48条により、工事のため一般の通行を禁止する標識を掲げてある場合にも、なお道文法上道路といえるか否かが争われた事案があります。
裁判所は 「通行の禁止は、道路管理者が、一定の場合に道路の構造保全、または交通の危険を防止するため一時的に行う道路管理上の措置にすぎないのであり、むしろ道路本来の目的効用を達成するための措置であって、それが道路たることを否定するものではない 」 「運転免許制度の趣旨からみても、同制度は道路における車両による危険の防止を図らんとするにあり、単に通行禁止標識のみをもってしては禁止区間内に一般通行人が立入ることを完全には防止しえずねかつ右にいう危険とは、一般通行人に対する危険に限らず、該工事従事者、同区間内に存する物に対する危険等、広く一切の危険を含むものと解すべきであるから、たとえ道路標識が設置されて、一般の通行が禁止され、運転した自動車が工事用自動車で、その運転区間も右通行禁止区間内に止まるとしても、当該自動車の運転に免許を要しないものとする合理的根拠はない 」として無免許運転の成立を認めたものがあります。その他、道路交通法上の 「道路 」に含まれる 「一般交通の用に供するその他の場所 」については,林道、海岸埋立地の未完成道路、河原の砂利採取、車体洗條のための通行路などはいずれも積極に解されています。
こうした例からもわかるように、道路交通法適用外地域は、必ずしも固定されたものではありません。
自動車保険上での、道路交通法の適用除外地域における取扱いとしては、本項の趣旨から考えて、公に認められた一定水準以上の運転能力を有する者が運転することが保険契約の前提となっていること、また、単に「無免許運転者によって運転されているとき」という文言上から、法令違反を本項免
責の要件とはしていないので、堪走性を欠くと認められる場合には、道路交通法の処罰を受けない場合でも免責とされます。
したがって、道路交通法上の無免許運転とは異なり、前述の道路交通法上無免許とされるもののほか、クレーン等安全規則に違反するものや道路でない場所の運転の場合にあっても免責とされます。
ただし、自動車メーカーの工場構内勤務者等で、使用者から「構内免許」といった性格の資格を有する者、あるいは工事現場で、公の特殊免許を特たない者の特殊工作
車を運転した場合等では、当該企業の内外にて、一定の当該車両の取扱上の講習を受け、当該企業内にて運行適格者と認められているようなときには、これは本項免責から除外してもよいでしょう。
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