承諾書に捺印した後での異議
自賠責保険に請求が提出され、査定事務所でその事故について内容を調査し妥当な損害額を算出したときは、被害者請求であっても、加害者請求であっても、必ず請求者宛に「貴殿の請求については,金○○円を妥当な支払額と認めますから、異議がなければ支払額承諾書に捺印して返送して下さい」という意味を文書または電話等で
連絡して、支払額承諾書に捺印を求めることになっております。
支払額承諾書の形式・文言は一定されており、つぎのとおりになっています。
「責社自動車損書賠償責任保険証明書第○○号にかかわる自動車の事故により生じた人身損害に対する下記支払額を承諾いたします。ついては、下記支払額のとおり損書のてん補を受ければ、今後いかなる事情が生じても本件に関し貴社に対して異議の申立て、訴訟等一切の請求をいたしません」となっていて、下欄に支払額・事故年月日・被害者氏名等の欄があり、宛先は保険会社宛となっています。
したがって、この承諾書の文面は、その内容が非常に強い表現となっているため、ひとたびこれに捺印してしまえば、その後どんな事情が生じても一切権利を放棄したように考えられがちです。
では、果たして、承諾害に捺印してしまえば、いかなる事情が生じても絶対再請求はできないでしょうか。この問題には二つの説があります。その理由として、被害者は、保険会社に対して直接請求権をもっていますが、この請求権の法的性質が必ずしも明らかでないからです。
もし、その直接請求権の性質を、被害者が直接に保険会社に請求する法定代位権またはこれに準ずる権利であると解すれば、自らその余の請求権を放棄した以上、それに因って生じた不利益は被害者に帰し、被害者は保険会社にも、加害者にも何ら請求権はないということになります。
しかしこの直接請求権を被害者が保険者に対して有する損害賠償請求権と解して、加害者に対して被害者が有する損害賠償請求権とともに、被害者の完全な救済という共通の目的を実現するための別個独立の権利とみるならば、被害者は、とうぜん保有者に対して残りの損害について賠償請求ができるわけです。もちろん、被害者はこれがため二重の支払を受けることはできませんが「特別の事情」のないかぎり、保険会社から受けた支払額の内容と抵触しない範囲では加害者側に対し財産上または精神上の損害賠償を請求することができることになります。なお、ここに「特別の事情」とは、保険会社に対する承諾書の差入れだけではなく、さらに積極的に保有者に対する請求権をも放棄する意思を表示したばあい等を指すものと解されています。
しかし、被害者の直接請求権が、加害者の保険金請求権および被害者の加害者に対する責任請求権からそれぞれ独立している理論からすれば、これらの権利が同時に消滅するとはいえないと考えられます。したがって、直接請求権の一部を放棄したことによって保険金請求権の消滅をきたすことはないことになります。そこで、被害者が直接請求権を放棄したあとで加害者に対して賠償を要求し加害者がこれに応じて支払いをすませたばあいには、それが不当な支払いでないかぎり加害者は、保険会社から保険金の支払いを受けることができると解されます。
承諾書に捺印する時には予想もしなかったような特別の事態が発生したとき、たとえば、ほとんど全治に近い状態であったので、承諾書に捺印したところ、その後容態が急変して死亡したとか、思わぬ後遺症が残ったというような場合には、その事情をよく保険会社に説明すれば、改めて死亡事故として請求または後遺障害補償費の請求を受付けてくれるはずです。もちろん、その死亡なり、後遺障害なりが、前の自動車事故によるものであるという相当因果関係を説明する医師の書類が必要で、なんらか他の原因が途中で入り込み、そのために再発したというのでは駄目です。
もし、あなたが査定事務所から示された額に不満があるか、不審の点があれば、どうしてその額になるのか、内訳計算はどうなっているのか、照会して説明を求めることができます。査定事務所は、一定の基準と規定によって公平に積上げ計算をしているわけですから、詳しく説明してもらえば、十分納得がゆくことと思います。
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