暴動や天災などによって破損した場合の車両保険金の支払い
これらの問題について結論を出すためには、自動車保険普通保険約款車両条項2条について理解する必要があります。
まず、第一に同条3号は「戦争・変乱・暴動・政治的もしくは社会的騒じょうまたはこれらに類似の事変および労働争議」によって生じた損害を免責と定めております。
この免責条項が設けられた理由としては、これらの異常な非常事態における損害は、その範囲、程度などが予測し難いため、保険料率の算定が技術上困難なためです。その趣旨からいって、ここに例示された危険は、特に定義されていませんが、おのずからある程度以上規模の大きな状態をさすことになります。たとえば、昭和27年のメーデー焼打事件、昭和36年の大阪釜ケ崎事件は、騒じょうとして取り扱われましたし、先頃の羽田空港事件なども騒じょうに該当すると考えられます。
たまたまデモ隊と警察の機動隊の衝地帯を通りかかって、投石で車が破損した場合などの場合、ごく小規模のデモによる偶発的な被害でないかぎり、免責となり、保険金は支払われないことになるでしょう。
つぎに、同条4号は 「地震 ・噴火 ・台風 ・洪水・高潮または津波 」によって生じた損害を免責としています。
台風が襲来しているときに、海岸沿いの道路を車で走っていたところ、高潮に流され車が全損したような場合も、結論としては免責に該当し、車両保険金は支払われません。
これらの天災の範囲については気象庁の見解にもとづいて判断されますが、これらの列挙危険と損害との間に相当因果関係があるとされるのは「第1にその状態・行為がなければその損害が発生しなかったであろうと認められ、第2にその様な状態、行為があれば通常はその様な損害が生じるであろうと認められる場合」です。このような場合にのみ免責とされるのです。
したがって、たとえば、昭和40年に東京地方を襲った台風の際、取材中のラジオ局カメラマンを乗せた車が進路を見誤って海中に落ちた事件がありましたが、このような場合などは台風と損害の発生との間にはある程度の関係はあるにしても、相当因果関係は認められないので車両保険金は支払われることになります。
また、地震の発生した場合を考えると、倒壊した車庫の下敷きとなり、車両が破損したり、地震のため発生した火災により焼失した場合は免責となりますが、地震の翌日現地を通りかかり、誤って亀裂に落ち込んだため車両を破損した場合は保険金支払いの対象となります。
平時では滅多にないことですが戦時中などでは国家の方針により国家の手で車両が徴発されたり、破壊されたりする可能性があります。それでは、消防のため路上に駐車中の車がやむをえず破壊されたり、火災の延焼を防ぐため車庫を破壊した際自動車も損害をこうむった場合などはどうなるでしょうか。
同条8号では「差押え・徴発・没収・破壊など国または公共団体の公権力の行使」により生じた損害は免責であるとし、「ただし、消防または避難に必要な処置としてなされた場合を除く 」と規定しています。
「差押え 」は、刑事訴訟事件の場合の証拠物件としての差押え、国税滞納の際の差押え、民事訴訟事件における差押え、その他を指し、保険の目的となっている車両が差押えによって契約者から失われたとしても保険金は支払われません。
「没収 」とは、刑法19条によるもので、車両が犯罪行為に使用され、あるいは犯罪行為により取得した等の理由により没収されたための損害も免責となります。
これらの公権力の行使による損害は差押え、没収等の行使に至るまでの事情があり、通常これによる結果は被保険者にとって偶然とはいえないものなので免責とされているのです。
また、 「徴発 」については、戦時あるいは緊急事態の際に広範囲かつ大量に発生することが考えられ免責とされます。しかし、但書では同じ公権力の行使による損害であっても、延焼を防ぐため、すなわち消防に必要な処置のため損害を受けた場合、あるいは天災・非常事態発生の際などに警官が法の規定にもとづいて避難のためにとった処置によりこうむった損害については免責規定から除外しております。
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