車両保険金が支払われる事故

約款の車両条項1条1項に「衝突・接触・墜落・物の飛来・物の落下・火災・爆発・盗取その他偶然な事故によって生じた損害」をてん補すると規定しています。自動車保険にかぎらず、保険契約では偶然な事故について、てん補するものであって、必然的に生ずる損害、たとえば、自然の消耗など事故発生の蓋然性がきわめて高い状況を、契約者自らが作り出した結果としての事故については、てん補されません。保険契約は、この偶然な事故をすべて包括的にてん補する建前のものと、特定の限定列挙された偶然な事故についてのみてん補する建前のものに分類することができます。自動車保険普通保険約款の旧契約では「衝突・墜落・転覆・火災・盗難および陸上輸送中の事故」によって生じた損害のみを担保しましたが、新契約では、それらのみならず、その他偶然な事故を、免責条項に該当しないかぎり、すべててん補されることになりました。この結果、旧契約では、損害が発生しても、それが列挙されている「衝突・墜落・・」に該当する事故によって生じたものか否かが問題となりましたが、新契約では、損害が生ずれば、それが何によって生じたかを考えるまでもなく、偶然な事故によって生じたものであるかぎり、てん補されます。

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旧契約では契約者、被保険者は、列挙された事由によって、損害が発生したことを立証する責任がありましたが、包括担保方式に移行した結果、偶然な事故が、保険期間内に発生したことを立証すれば足り、その損害が特定の事由によって発生したことまで立証する必要はありません。したがって、保険会社は、後述の免責条項に該当することを立証しないかぎり、一切の偶然な事故による損害について、てん補責任を免れることはできません。もっとも、約款一般条項11条4項4号に「当会社が行う損害の調査に協力すること」、同条2項に「この協力義務違反につき違反したときは、当会社は損害をてん補する責に任ぜず」と規定されており、立証責任とは別個に、被保険者、契約者は、事故の状況について保険会社に説明すべき立場にあります。
 偶然な事故とは、その発生または不発生が確定していないものです。したがって、車両に当初から内在している瑕疵、車両の通常の使用過程で生ずるタイヤの摩耗、車体の腐触、疲労、色あせ、部品の摩耗、性能低下、価格の下落などの自然の消耗とか、特別な事情のもとで、事故発生がきわめて蓋然性の高いものは除かれます。前者は、約款の免責条項でも規定されています。後者については、免責条項で規定されているもの(故意・重過失無免許運転、酪酎運転)のほか、保険契約の前提条件である信義則を踏みにじるような車の使用によって、事故発生の蓋然性が高められる場合も含まれます。
 つまり、自動車保険では、車両が通常の運行に差し支えない機能を特っていること、車両の性能・機能に応じた正当な使用方法をもって使用されること、運転者が、運転に必要な能力をもっていること、違法な目的に使用しないこと等が保険金てん補の前提条件であって、これに反する運行は、ここでいう偶然な事故とはいえません。あまりにも当然のことなので、約款に規定されていませんが、例をあげるとつぎのようなものが該当します。
 ハンドルやブレーキなどに故障があって、正常な運転を期待しえない車両を運転中の事故による損害。車両の積載許容量を無視して、オーバーロードの状態で運転して、フレームに曲損を生じたとか、リアアクスルシャフトを折損したような場合。運転者が、薬物等の影響によって、意識もうろうの状態で運転したり、無資格者の運転、ないしは運転免許の条件に違反して事故発生の蓋然性が著しく高くなる状態で運転中生ぜしめた事故無謀なスピードで運転して発生した事故。犯罪行為に車両を使用中に発生した事故。
 同じ保険料を支払っていながら、このような悪質な事故をおこした契約者に、保険金を支払っては、保険料の値上げなどにより、善良な他の契約者の利益を害することになるからです。
 以上のような場合でないかぎり、包括担保方式の約款の場合には、損害が発生すれば、それは一応のところ、偶然な事故によって生じた損害であるという推定を受けます。
つぎの要件を充足すれば、保険金は支払われます。偶然な事故であること、免責条項に該当しないこと、約款に定める契約者、被保険者に課せられた各種義務違反のないこと、特約条項によって、定められたてん補条件に合致すること、保険の目的について生じた損害であること、免責金額を超過する損害であること、保険期間内で保険料入金後の事故であること。

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