部品交換費用などは車両保険の対象になるか

保険会社がてん補する損害の額は、その損害が生じた地および時における保険の目的の価額によって決定されます。この条項は、自動車車両保険契約が、保険の目的である自動車の価額を、保険を契約するにあたって当事者間で定めない時価主義を採り、未評価保険契約であることを規定しているものです。
 したがって、全損の場合は時価を、分損の場合の修繕費も、事故発生地および発生時の時価あるいは相場に基づくものをてん補することになるわけです。
 保険の目的(自動車)が事故による損傷を修繕することが可能な場合には、自動車を事故発生直前の状態に復する(原状回復)に必要な修繕費を担保します。

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保険の目的を事故発生直前の状態に復するのに必要な費用とは、外観上、現在の自動車の修理業界で行なわれている一般的な修理方法および程度、すなわち板金修理や一部塗装をして十分もとの状態に復したと認められる程度のものであり、機能上も、車両検査や保安基準に耐えうる十分な程度に回復することをその基準とし、それに要する費用をいいます。事故をおこしたための市場価値の下落(格落ち損害)とか、修理中自動車を利用できなかったことによる経済的損害は、修繕費そのものには含まれません。
 もちろん、事故直前以上の状態にする費用、事故と関係のない部分、あるいは保険対象外の修理(便乗修理)、改修・改造等に要する費用は、ここにいう修繕費には含まれません。
 塗装の問題にしても、自動車メーカーから出荷される自動車は、すべて焼付塗装ですが、修理業者の焼付塗装費用は他の塗装方法に比し割高であり、また、いまだ一般的修理方法とはいえないところから、保険会社では、これをもって原状回復費用とは認めておりません。
 なお、塗装の範囲は、板金した範囲が原則ですが、作業関連上やむをえない場合は、最小区分単位まで認められます。全塗装は事故による塗装範囲が80%以上におよぶ場合には認められます。また、修理を急いだための深夜割増や、被保険者の選択によって部品交換をした場合も、通常の費用とは認められません。部品交換が認められる場合は、修繕施行上やむをえないときに限られています。
 すなわち、保険契約上、修繕費は必要最小限のものをてん補するものであり、被保険者や修理工場が任意に新部品を使用しても部品交換がやむをえない場合以外は、いわゆる板金費用をてん補される修繕費の額とします。やむをえないときとは、修繕すなわち板金等が不能の場合をいうのではなく、修理業界一般の常識として交換される場合、あるいは修理をすれば部品交換より高額となる場合をいいます。
 しかし、操向装置、懸架装置のように、機能的に重要な保安関係の部品は、必ずしも経済性を中心には考えらるべきでないこと当然です。
 なお、外観上、機能上、自動車という物の原状回復の費用とは認められない費用、たとえばフレームナンバーの再打刻あるいはナンバープレートの取替えにともなう行政手続上の費用は修繕費とはいえないため、担保されません。
 約款上では「損傷修繕をすることができる場合には」と規定されているだけで、修理可能な場合でも修理の実施ないしは修理費の現実の負担が保険金支払の条件とはされていません。
 したがって、被保険者が修理を延期したり修理しないで下取りに出したり、廃車した場合でも、保険金は請求できるわけです。しかし、自動車保険の費用保険的性質から修繕施行が確定したとき、または保険期間が終了したときに、確定見積書ないし、修 理費請求書の提出を求め、実損を確認してから支払われることとなります。
 未修繕のまま第2回目の事故により全損となった場合は、一応それぞれ独立の事故として保険金が算出されますが、全損時の時価は、未修繕修理費相当額が減額されることになります。したがって、全損は前の分損を吸収し分損はなかったものとして後 の全損時の時価を支払うこととしても同じになります。
 保険金を支払うべき損害により、自動車が物理的に自力で移動できない場合には、修理工場まで運搬するに要した費用、または修理工場まで自力走行が可能の程度にまで行なった仮修繕(応急修理)費用は、正当な部分にかぎり、修繕費の一部とされます。したがって、免責とされるべき事故や損害については、このような費用を要したとしても担保されません。
 自力で移動ができないということは、車両自体が自力走行不能ということであり、運転者が死傷したこと等による移動不能の場合は、運搬費とはいえません。
 運搬費は、けん引費・吊上げけん牽引費(レッカーけん引)・運送費を含み、原則として事故現場にもよりの修理工場までの妥当な費用を認めています。
 もよりの修理工場とは、ディーラーおよびその協力・指定工場等のレベル以上の工場で、その車種を修理する能力を十分備えている工場ということです。
 仮修繕費用とは、破損した自動車の自力走行またはけん引を可能にするため、あるいは損害の拡大防止ないし軽減のために必要とされる応急修理費用をさし、修理工場の工員が現場へ出張修理した工賃・部品代など仮修繕に要した必要かつ有益な費用を てん補します。
 もよりの修理工場まで運搬し、自力で被保険者の選択した修理工場まで走行しうるように仮修繕をした場合は、運搬費か、仮修繕費用のいずれか一方のみが正当な費用とされます。ただし、もよりの修理工場に本修理を行なう能力がなく、そこまでけん引したが仮修繕のみで本修理可能なもよりの修理工場まで自力走行する場合は、けん引に要する費用と仮修繕費用の合算額と、はじめから本修理可能なもよりの修理工場までけん引を継続した場合の費用との比較において、いずれか安価な方法が正当なものと認められます。
 墜落・転覆事故による自動車の引揚げを要する場合、引揚げに要するレッカー車・ブルドーザー等の使用料、作業員・人夫などの日当、器機材・ワイヤー・足組み丸太の損料といった費用も、ここにいう運搬費に合まれます。
 保険の目的たる自動車とともに転落した積載貨物や、機械不担保特約の場合の機械類も同時に引き揚げる場合は、貨物や機械類の引揚げに要したと認められる費用は担保されません。この場合の引湯費用は、海上保険の共同海損の方法たる救助された物の価格によって按分したり、自動車のみを救助するに要したと認められる費用のみを担保することになります。また、引揚げの際、現場の立木を伐り倒したり、田畑を荒らした場合は、この損害賠償費用は、損害防止費用とするか、あるいは引揚業者の引揚請負代金の中に含まれるものとして、救助費の一項目と考えるとし、いずれにしろ担保される損害です。
 保険目的に損害がない場合、たとえば山道のスロープに突込み、車体には損害がないが自力ではスロープを登れないといったとき、もし現場に放置すれば、損害の発生が緊急かつ明白に生ずる危険があると考えられますが、他方、ここにいう運搬費用は、そのてん補の要件として、保険会社がてん補すべき損害により、かつ自力移動不能という場合に限られるため、本項は適用されないが、このような費用は、別途損害防止費用として、てん補されるものと考えられます。
 なお、引揚げ・運搬中の保険目的(自動車)について損害が生じたときは、引揚げ・運搬業者の善良な管理者としての注意義務をまっとうしても、なおかつ損害が生じたと認められる場合については、その損害は、墜落等の事故と相当因果関係にある損害として担保されます。ただし、これらの業者に善良な管理者としての注意義務違反があったことにより生じた損害については、その業者に対して損害賠償の請求をすることができます。

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