複数の車が加害者となった場合の賠償請求
タクシーに乗って帰宅途中、交差点で出合いがしらにトラックと衝突して、私は負傷しました。タクシーにもトラックにも責任があると思います。トラック側では、タクシー会社と掛け合えといっていますが、治療費のみで80万円を要しました。両方の自賠責保険が使えると、治療費の心配はないのですが、双方の自賠責保険にそれぞれ請求できるのでしょうか。それとも双方に半分ずつ請求するのでしょうか。また、後遺症のある場合や死亡事故は、両方の自賠責保険に請求できるとすると相当高額になりますが、双方それぞれに全額請求できるのでしょうか。
本問のように、たまたま乗っていたタクシーが衝突事故をおこしそのためにケガをするようなケースがよく発生いたしますが、このような場合片方の車の一方的過失による場合は別として本問のように双方の車に責任がある場合には、双方の車に対して損害賠償を請求することができます。
民法では、共同不法行為としてつぎのとおり規定されております。
「数人が共同の不法行為に因りて他人に損害を加えたるときは、各自連帯にて其賠償の責に任ず、共同行為者中の執れが其損害を加えたるかを知ること能わざるとき亦同じ 」
このように共同不法行為者は、各々が被害者に対して連帯責任を負うことになっていますから、これを被害者側からいえば、受けた損害全額についてそれぞれの加害者に対して賠償請求する権利があるということです。
そこで、ケガをしたことによって生じた全損害をタクシー側に請求してもトラック側に請求しても、さらには双方同時に請求してもよいのです。トラック側があなたに対し「自分の方には全く責任がない」こと立証することができるならともかく、若干なりとも責任があるならばトラック側もタクシー会社と全く同じく、この治療費80万円、その他の損害額をあなたに全額賠償する責任があります。もちろん、トラック側が全額あなたに賠償金を支払ったような場合には当然その後に連帯責任者たるタクシー側にそのうちの適当額を求償するでしょうし、実際にはその前にトラック側としてはタクシー側と双方の過失割合を話し合って、その割合で損害賠償金を分担しようとすると思われます。
がしかし、被害者たるあなたは、加害者側の内部関係がどうあろうと、損害金全額をどちらに対してでも請求できるのです。要はケース・バイ・ケースで最良の請求方法をとることでしょう。もちろん、いずれか一方から全額の支払いを受けたときにはそれであなたの請求権は消滅しますから他の一方へ更に請求することはできません。
前述のように、あなたはタクシー会社にも、またトラック側にも80万円の治療費を含め損害の全額をそれぞれ請求できるわけですから、この場合タクシー会社の加入している保険会社をA社、トラック側のそれをB社とすれば、あなたはA社・B社それぞれに保険金(損害賠償額)を直接に請求することができます。ただし、この場合注意しなければならないことは、損害額以上の賠償というものはありませんから、A・B両社からそれぞれ損害の全額が支払われるのではなく、A・B両社合計で損害額の全額が支払われます。通常の場合は各々40万円ずつ保険会社が折半して支払うことになります。ただ、損害額が50万円以内の場合には、双方に請求するのは面倒ですから、A社なりB社なりどちらか一方に保険金の請求をすればよいのです。A・B両者はそれぞれあなたに対して連帯して賠償責任を負っている形ですから一方だけで全額を支払ってくれます。
つぎに、本問後段の後遺症のある場合や死亡事故の場合について述べてみましょう。
ご存知のように、自賠責保険金は「傷害による損害」「後遺障害補償費」「死亡による損害」とにわかれており、それぞれに支払限度額があります。そして共同不法行為の場合はその限度額がそれぞれ加害車の台数に応じて2倍なり3倍なりになります。
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