自賠責保険の趣旨

第2次世界大戦後、日本における自動車産業の発展はまことにめざましいものがあり、戦後の経済復興の大きな原動力となりました。しかし、その反面、自動車台数の増加にともなって、自動車による交通事故もまた年ごとに急増の一途をたどり、被害者救済対策が大きな社会問題として叫ばれるようになりました。もともと日本では、欧米諸国にくらべて賠償観念が著しく劣り、法制度の上からも被害者に対する十分な保護は施されていたとはいえません。
 たとえば、不法行為によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負わねばなりませんが、この場合、原則としてその加害者の故意、過失が立証されなければなりません。したがって、 加害者に故意、過失のあることを被害者側で立証しなければならないことになり、これを立証することは困難ですし、かりに立証しえたとしても加害者に賠償する資力がないと、賠償義務を履行することを期待できないので、このため被害者は泣き寝入りせざるをえないという例が非常に多かったのです。
 そこで、自動車事故による被害者に最小限の補償を行ない、それに要する賠償資力を確保するために、自動車の保有者に対して保険に強制加入させるように法制化することが考えられるようになり、ついに昭和30年に自動車損害賠償保障法(自賠法)という法律が制定されるに至ったのです。

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このように、自動車は自賠法によって、原則として自動車損害賠償責任保険の契約が締結されたものでなければ運行の用に供してはならないことになっています。つまり、自動車には、自賠責保険をつけることが強制されているわけで、そのためこの保険を強制保険ともよんでいます。
 ここにいう自動車とは、道路運送車両法に定める自動車、すなわち、原動機によって陸上を移動することを目的として作られた用具で、トロリーバスや電車のように軌条や架線を用いないもの、いいかえれば,二幅・三輪・四輪の別なく自動車と名のつくもののすべて、および原動機付自転車を指します。
 なお、自動車であっても、つぎに列挙するものは、自賠責保険の対象から除かれ(適用除外車)、あるいは、自賠責保険をつけることを免れます(適用免除車)。
 上述のように、いかに法律で自賠責保険の契約を締結することを強制する規定を設けてみても、現実にそれが守られなければ実効を期待し得ないわけで、これがため、自賠法では、つぎのような手段によって、無保険防止を図っています。
すなわち
 自動車を登録し、あるいは車体検査を受けるときには、自動車検査証の有効期間をみたす自賠責保険証明書を提示しなければこれらの行政処分が受けられない。
 登録および車検制度のない軽自動車および原動機付自転車には、保険に加入していることを示すステッカー(保険標章)を表示していなければ運行の用に供してはならない。
 また、自賠責保険証明書は、自動車検査証と同様、自動車を使用する際には必ず携行しなければならないことになっていますし、これらのいずれに違反しても罰則が適用され、懲役刑または罰金刑が課せられることになっています。
 被害者が加害者に対して損害賠償請求を行なうには、原則として、自ら相手方の故意・過失を立証しなければなりませんが、自賠法では、自己のために自動車を運行の用に供する者が、その運行によって他人の生命、身体を害したときは、原則として無過失責任に近い損害賠償責任を負います。例外として、自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと。被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと。自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと。の三つの条件を、加害者が自ら立証した場合に限り賠償責任を免れうる旨の規定をし、運行供用者に重い責任を課し、被害者の保護を図っています。過去の判例をみても、これらの条件をすべて立証することは至難なことと思われますので、一旦、人身事故を起こせば、よほどのことがない限り賠償責任を免れることはできないでしょう。
 しかも、戦争や地獄にたとえられるような昨今の激しい交通事情や、しだいに高額化する賠償金のことを考えると、いかに運転に自信があるといっても無保険のまま自動車を走らせるなどは、まことに無謀といえるばかりでなく、社会的責任を回避する無責任極まる態度と申せましょう。

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