車両保険を支払ってもらえない場合

せっかく保険料を支払っているのにイザという場合に保険金を支払ってもらえないというのは、まことに残念なことです。
 しかし、保険制度の健全な発達や善良な一般の被保険者、契約者のために、どうしても免責を相当とする場合があります。ふだんから免責とされる場合を知っておき、十分留意されることが望まれます。
 保険金を支払ってもらえない場合としてはつぎのものがあります。
 事故の原因について免責とされる場合、異常危険もしくは危険の著しい増大につき免責とされる場合、約款の前提とする正常な車両の運行に反するものとして免責とされる場合、損害の範囲または形態について免責とされる場合、その他特約条項によって免責とされる場合、契約者・被保険者の各種義務違反またはその結果の契約解除により免責とされる場合、契約者・被保険者の手続上の問題により免責とされる場合。

スポンサーリンク

車両条項2条に列挙されているものでは、つぎのものがあります。原因について免責とされるのですから、免責事由と相当因果関係のある損害について免責とされます。
 故意・重過失によって生じた損害は、契約者・被保険者側の事故招致の責任を問うて、免責としたものです。
 戦争・暴動・騒じょう、またはこれらに類似の事変および労働争議によって生じた損害、ならびに、これらに随伴して生じた損害またはこれにともなう秩序の混乱に基づいて生じた損害は、異常な危険であり、保険料率算定上、大数の法則に副わぬ損害として免責とされます。
天災危険のうち、地震・噴火・台風・洪水・高潮・津波ならびに、これらに随伴して生じた事故、または、これらにともなう秩序の混乱に基づいて生じた事故によって生じた損害は、前項と同様の理由により免責とされます。ただし、天災危険「車両損害」担保特約が付されている場合には、てん補されます。
 核燃料物質(使用済燃料を含みます)または、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含みます)の放射性、爆発性、その他有害な特性の作用、またはこれらの特性に起因する事故ならびに、これらに随伴して生じた事故、またはこれらにともなう秩序の混乱に基づいて生じた事故、ないしは、これら以外の放射線照射または、放射能汚染による損害は免責とされます。
 差押え・徴発・没収・破壊など,国または公共団体の公権力の行使によって生じた損害は免責とされます。
 差押えとは、刑事訴訟法99条の証拠物の差押え、国税徴収法47条の国税の滞納処分としての差押え、または、民事訴訟法566条〜571条の有体財産の差押えは無論、民事訴訟法・破産法・和議法・会社更生法上の仮差押えも含みます。
 徴発とは、自衛隊法103条の物資の収用、警察法上の緊急事態の布告下における収用などを指します。没収は、刑法19条の没収がこれにあたります。ただし、消防または避難に必要な措置としてなされた場合は免責事由から除かれます。この免責条項は、自動車保険でてん補さるべき自動車事故とは関係ない危険として免責としたのです。
 詐欺・横領による損害は、契約者・被保険者の瑕疵ある意思または、信頼が介在するもので、自動車保険でてん補さるべき自動車特有の事故でもなく、モラルリスクの危険も大であって免責とされます。
 異常危険・危険増大による免責、約款車両条項3条1号〜3号に規定された用途・車種の変更または使用、競争・練習、または試験のための使用、航空機または船舶による輸送などの事由が生じた場合に、危険の変更・増加があったものとして、その危険変更または、危険増加の継続している間の損害を免責としたもので、その抽象的な危険が具体性を帯びない場合でも、またその危険と損害との間に因果関係が存しなくとも免責とされます。
 堪走性欠鋏による免責、自動車保険においても、自動車の通常の運行に不可欠の要素として、つぎのものが要求され、これを欠くときは偶然性を欠き、保険てん補の前提がそなわらないものとして免責されます。この前提には、約款上明示のものと、保険契約上当然のこととして、黙示のものがあります。
 車両を運行する者が、適当な能力・技量をもつこと、この典型的な例として、無免許運転、酪酎運転があります。
 車両が安全に運転しうる状態に整備されていること、ないしは車両の機能・性能・容量を無視しないこと。
 車両の運行自体が適法行為に用いられていること、犯罪行為に用いられている場合などについては、公序良俗にも反する行為であり、保険てん補は拒絶されます。
 損害の態様による免責、自然の消耗、内在瑕疵など、車両にそもそも存在する欠訣、タイヤの単独損害、カーステレオなどの単独損害、工作用車の接地工作器具の単独損害、機械装着車の機械単独損害は、火災・盗難の場合を除き担保されません。
 電気的・機械的損害はいわゆる車両の故障であって、填補されません。
 車上にない保険の目的の一部に生じた損害、つまり、修理・調整等のため、車両本体より取脱された部分品について生じた損害は、てん補されません。
 不担保・限定特約による免責、盗難不担保特約のある場合は、盗取によって生じた損害(発見されるまでの間に生じた損害を含みます)は、てん補されません。運転者限定特約のある場合には、証券に記載された3名以内の者の他の者が運転している間に生じた損害は、てん補されません。
 義務違反による免責、保険契約は最大善意の契約ともいわれ、また、危険の予測の上に保険料算出、もしくは、保険契約の引受を行ないますので、契約者・被保険者には、保険契約締結時、保険契約期間中に事情が変更したとき、事故発生時に、それぞれ告知義務、通知義務、報告・協力・損害防止軽減義務を課しています。この義務違反があるときは、保険会社のてん補責任が免除ないしは制限されます。
 告知義務違反、契約者・被保険者またはこれらの代理人は、保険契約時に保険申込書の記載事項につき、真正の事実を告知し、かつ知りたることを告知する義務があります。保険会社はこの申込により、危険を測定し、申込みを受けるか否かの選択を行ない、申込書記載事項によって、保険料を算出しますから、申込書記載の事項に虚偽のあるときは、保険会社に契約の解除権があり、しかも解除前の事故についても保険金は支払われません。ただし、危険測定に関係のない事項については、解除されることはありません。
 契約の無効、契約締結上、詐欺の場合、契約時に事故がすでに生じている場合、他人のために保険契約を締結する場合において、保険契約者が、その旨を申込書に記載しなかったときは、契約は無効であり、てん補されません。
 通知義務違反、保険契約は、一定の危険測定を前提とし、この危険が異常に増大または変更しないことを前提としていますから、このような事態が発生したときは、保険会社に保険契約を継続させるか否かの選択権があります。特定の異常危険については、免責条項に明記されていますが、その他の場合には、通知することにより、保険会社の承認の裏書を請求しなければ、てん補されません。たとえば、保険証券記載の自動車を譲渡するとき、用途・車種変更、登録番号・車体番号の変更、火薬類・高圧ガス等危険物を積載するとき、その他保険申込書記載事項に重要な変更が生ずるとき、危険が著しく増加したとき、重複保険契約を締結するとき、もしくは重複保険の存在を知ったときなどがあります。
 管理義務違反、保険契約は、車両が、通常の運行機能を保持することを、てん補の前提としていますから、これを怠る場合には契約は解除され、安全に運転しえない状態となったり、車検を受けることを怠ったとき以降の事故については、てん補されません。
 事故発生時の義務違反、事故発生の際、損害の防止軽減義務を怠った場合、他人から求償しうる場合にその権利の保全または行使につき必要な手続を怠った場合、賠償義務を負担することの承認を保険会社に求めなかった場合には、保険会社がこれらの義務を履行した場合に、生じたであろう額を限度として、てん補することになります。事故報告義務、損害調査協力義務、本修繕の承認を求める義務、訴えの提起、または訴えを提起された事実の報告義務に違反すると、てん補されないときがあります。
 保険料入金前の事故、保険期間は、証券記載の初日午後4時より、末日の午後4時までとされていますが、保険料を保険会社に支払う以前に生じた事故による損害についてはてん補されません。
 書類の不実記載、書類もしくは証拠の偽造・変造の場合には、保険金詐取の意図もうかがわれ、てん補されないことは無論のこと、刑事責任を問われることもあります。
 以上のように、保険金を支払ってもらえない(免責)場合は、いろいろありますが、契約者は、良心的かつ善良な運転者・管理者としての注意を怠らなければ、非常な場合を除き支払ってもらえない場合はきわめて限られていることに気づかれるものと思います。

保険の意義と機能/ 保険の分類と種類/ 自動車保険の概要/ 保険事故と保険当事者/ 保険金と保険料/ 交通事故被害者の請求権の種類/ 保険契約時の注意事項/ 企業の保険のつけ方/ 保険の取扱い機関/ 自賠責保険の趣旨/ 自賠責保険における被保険者の範囲/ どんな事故まで自賠責保険の対象となるか/ 同乗者に対する責任は自賠責保険の対象となるか/ 加害者に自賠責保険が支払われない場合/ 自賠責保険金の請求ができる者/ 自賠責保険の対象となる治療の範囲/ 自賠法の特色と限度額/ 自賠責保険金を請求する手続き/ 承諾書に捺印した後での異議/ 自賠責保険金受取後の追加支払請求/ 複数の車が加害者となった場合の賠償請求/ 被害者に過失がある場合/ ひき逃げその他の場合の自賠責保険金請求/ 任意保険の種類/ 任意保険のつけ方/ 任意保険の契約期間中の事情の変更/ 車両保険金が支払われる事故/ 車両保険を支払ってもらえない場合/ 運転者に重過失のある場合の車両保険金の支払/ 暴動や天災などによって破損した場合の車両保険金の支払い/ 詐欺や横領の場合の車両保険の支払い/ 無免許運転での事故による車両・賠償保険/ 自然消耗などによっておきた事故での車両保険金/ 部品交換費用などは車両保険の対象になるか/ 全損の場合の車両保険の支払/ 車両保険の免責金額の控除と事故回数/ 盗難の場合の車両保険金/ 事故の責任が被保険者以外の者にある場合の車両保険金/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク