任意保険の契約期間中の事情の変更
契約期間中、車両を入れ替える場合、旧車の保険の残存期間分について、そのまま新車に移しかえることは認められておりません。旧契約は解約し、その解約日を始期
とする新しい契約を結ぶことになります。
ただし、車両入替の解約の場合は、一般の解約と異なって、返還保険料の計算方法について特別な扱いが認められており、契約者に不利とならないように配慮されています。すなわち、代替車がつぎの3条件全部を充足する場合にかぎり、既経過期間中の保険金の支払いの有無を問わず、残存期間分の返還保険料は日割で計算されます。
(1) 同一車種であり、かつ、同一用途であること。
(2) 担保種目の削除がなく、かつ、それぞれの保険金額が同額以上であること。
(3) 同一またはそれ以上の保険期間であること。
なお、以上の車両人特にあたる場合にはもうひとつの特典として、旧契約の無事故割引または運転者限定割引がそのまま新契約に承継されるとともに、無事故期間の算定にあたっても車両入替によって期間が断絶するような取扱いはされません。
つぎに、車を他人に譲渡する場合にその車の保険契約を解約せずに、車とともに譲受人に権利移転させることは可能です。商法650条1項は「被保険者が保険の目的を譲渡したるときは同時に保険契約に因りて生じたる権利を譲渡したるものと推定す」と規定していて、譲渡の当事者間で保険契約上の権利を移転する意思がなかった旨の反証がないかぎり、譲受人は当然権利を取得することになります。したがって、民法467条1項に規定されている指名債権譲渡の対抗要件として必要な、譲渡人(被保険者)の債務者(保険会社)に対する通知または債務者の承諾は、必要ないことになります。
しかし、実際には車が譲渡されたのに、いつ、だれに譲渡されたのかもわからないのでは保険会社としては不測の損害をこうむる可能性もありますから、自動車保険普通保険約款では、車を譲渡する場合の通知を被保険者または保険契約者に義務づけています。この通知は、所定の「権利譲渡承認請求書」を使用して、遅滞なく行なう必要があり、もし保険会社がこの通知を受ける前に事故が発生した場合には、保険金が支払われないことになっています。
自動車保険料率は、用途、車種によって基本料率が定められていますから、用途、車種が変更されれば適用料率もおのずから異なってきます。また、用途、車種が同一であっても、特殊な危険状態にある自動車に対しては、それ相応の割増料率が適用されます。
したがって、契約期間中に、用途、車種が変更した場合、たとえば、自家用車で契約したのが途中で営業用として認可を受けたような場合、あるいは火薬類、高圧ガスその他の爆発性、発火性、引火性の危険物または素材、薪炭類ないしは砂利類を運搬するようになった場合には、遅滞なく保険会社に「承認請求書」を用いて通知する必要があります。
そして、用途、車種の変更の場合には新旧用途、車種適用料率の差額について、危険物等の積載の場合には所定の割増保険料について、それぞれ短期料率を適用した追加保険料を支払わなければなりません。
上記の通知をしていても追加保険料を支払っていないうちに事故が発生した場合には、保険会社は保険金を支払ってくれません。
被保険者が、保険の目的を担保に債務を負った場合、債権者は債権保全をいっそう確実にするためその物が滅失、毀損した場合でも優先弁済が受けられるように、その物についている保険の保険金請求権のうえに質権、権利質を設定せしめる方法をとり
ます。自動車を担保物とする場合は、その自動車保険について質権設定の手続をとることになりますが、質権の目的として車両保険金のほかに賠償あるいは傷害保険金が対象となりうるか議論の分かれるところです。実務上は、賠償保険金については被害者保護の見地から、傷害保険金については公序良俗の見地から否定的に解されています。したがって、車を担保に借金をし、債権者のためにその車についている保険の保険金請求権のうえに質権を設定する場合には車両保険がついていることが前提となります。
また、自動車に抵当権を設定することについては自動車抵当法によって認められており、その得喪および変更についての対抗要件の具備は、道路運送車画法に規定する自動車登録原簿上の登録によっておこなわれます。
質権設定の手続とは具体的につぎのとおりです。
被保険者および債権者が「質権設定承認請求書」に連署のうえ、保険証券を添え保険会社に提出する。
保険会社は、保険証券に承認の裏書をして質権者に交付する(被保険者には証券の写が渡される)。
債権者は第三者への対抗要件を備えるため、公証人役場で質権設定承認裏書に確定日付を押捺してもらう。
以上の手続を完了しておけば、その車が事故を起こした場合には、債権者は残存質権額を限度として車両保険金を優先的に受領することができるわけです。
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