全損の場合の車両保険の支払
約款上、保険会社にてん補責任のあることがきまると、次いでてん補額が決定されます。修繕が可能の場合については、修繕費その他の費用がてん補されることになります。
全損の場合、てん補される損害の額は、その損害が生じた地および時における保険の目的の価額(保険価額)によって定められます。この価額はいわゆる時価であって、保険証券記載の保険金額ではありません。つまり、自動車保険契約は、保険の目的につき、未評価の保険契約であって、保険金額は、てん補される限度額を示すに止まります。保険金額が保険価額を超過するときは、超過した部分についての保険契約は無効となります。この逆の場合は、一部保険契約とよばれて、いわゆる比例てん補されることになります。
修繕不可能の場合は、いわゆる絶対全損といわれ、盗難などによって、被保険者が保険目的の占有を奪われた場合、断崖等から海中に転落したり、谷底に墜落して、現在の引揚技術をもってしては、引揚不可能の場合等、もしくは衝突などによって、修理技術上、修繕不可能となるまでに破損した場合を含みます。その他、フェリーボートに積載運搬中にフェリーボートが行方不明となった場合のように、車が行方不明の場合も、約款に特別の規定はありませんが、とうぜんに全損とされます。
修繕は可能であっても、事故発生直前の状態に復するに必要な修繕費と運搬費または仮修繕費の合算額が、保険価額を超過するときは、全損とみなされ、絶対全損の場合と同様に、保険価格、または、保険金額のいずれか低い額をてん補されます。このような場合は、修繕を施すことが、経済的に無意味となるからです。
旧約款では、海上保険の委付と同趣旨に「之を知りたる時より14日以内に保険の目的につき有する一切の権利を無条件に当会社に移転し損害の填補を請求したるとき」に「保険の目的につき全損ありたるものと推定す」と規定していて、推定全損とするか、修繕費を保険価額の限度をもって、てん補してもらうかの選択権は、被保険者にあるとされていました。しかも、後者の場合には、時価相当額を保険者が支払っても、残存物につき存する権利を、保険者が保険代位することができませんでした。現行の約款では、このような選択権を与えず、修繕費と救助費の合算額が、保険価額を超過するときは、全損とみなして、常に時価を限度として、てん補し、車両条項9条によって、残存物は常に、保険会社が代位取得することになっています。
車両条項5条6項の「第2項の修繕費と第5項の費用との合計額」とは、同条3項の新旧部品交換控除、同条4項のスクラップ控除を行なった後の純損害額を指すのか、または未控除の総費用合計額を指すかについては、約款の文言上は、どちらにも解釈できますが、他の保険種目の推定全損の認定方法にならい、総費用合計額とするのが、相当と考えられます。
全損として、保険会社が保険金を支払った場合には、保険の目的について被保険者が有する一切の権利は、当然に保険会社が代位取得します。また、保険金額が、保険価額に達しない場合には、保険会社は、保険金額の保険価格に対する割合によってその権利を取得します。
実務上は、保険会社が時価額を保険金として支払った後に、残存物を引き取って、適宜処分する場合のほか、残存物を被保険者が引き取るかわりに、時価相当額から、その残存物の価額相当額を控除して、保険金を定める場合があります。残存物の保険代位取得は、とうぜんの代位取得とされていますが、保険会社が、その残存物を取得しない旨の意思を表示した場
合には、保険の目的について存する一切の権利は被保険者に属するとされます。
たとえば、谷底に転落して、とうてい引き揚げることが不能の場合や、残存物が経済的に無価値の場合、もしくは車がフェリーボートから転落して、港湾の入口をふさぎ、所有者が、それを除去する義務を課せられるような、不測の費用をもたらす可能性のある場合には、保険会社は、この義務を兎れるために、権利を放棄するわけです。保険者が、残存物を取得するときは、被保険者側で、道路運送車両法所定の車両譲渡手続に必要な書類・証明書等を保険会社に提出する必要があります。
全損である場合を除き、1回の事故によって生じた損害が先資金額を超過する場合にかぎり、その超過額に対してのみてん補されます。
つまり、全損の場合には、免責金額を控除されません。
また、全損になると、保険契約は終了します。
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