車両保険の免責金額の控除と事故回数

約款車両条項1条2項には「車両損害が全損である場合を除き1回の事故によって生じた損害の額が保険証券記載の免責金額を超過する場合に限りその超過額に対してのみ、てん補する責に任ずる」と明記されていますが、これは簡単にいいますと、分損の場合(修理ができる場合)1回の事故について支払われる保険金は、損害の額から保険証券記載の車両免責金額を控除したものになる、ということです。
 自動車保険車両担保契約では、保険の目的である自動車が有する特質上、車両免資金額が設定されています。
 すなわち、車両免責金額の設定趣旨は、保険会社の事務処理上の繁雑さをさけ、被保険者としてもさほど経済的に影響をうけない小損害を不担保とし、その反面、保険契約者の保険料負担の軽減等をはかることにあるわけです。
 こうした考え方の具体的方法として、ある一定の金額(車両免責金額)以下の損害はすべて免責とし、その金額をこえる損害が生じた場合に、根っ子から全額を支払いの対象とする方式と、全損の場合を除いて常にある一定金額をこえた分だけを支払いの対象とする方式がありますが、現行の自動車保険約款では、後者の方式をとっています。

スポンサーリンク

狭い道で自動車の運転を誤り、前部が電柱に衝突したので、いったん下車して、前部の損傷を確認し、後退しょうとしたところあわてたために今度は塀に接触してしまいました。修理工場から前部の損害と後部の損害をあわせて7万円の修理代を請求されました。保険会社では、免責金額を2倍にして2万円まで免責されるから5万円を支払うといっていますが、免責金額は1万円のはずです。どうして2万円引かれるのでしょうか。

 事故がほとんど同一の場所で比較的短時間内に連続して生じたような場合には、しばしば1回の事故なのか、あるいは2回の事故であるのかが問題になります。
では、どのような考え方で事故回数が決められているかといえば、それは初めの事故原因と最終結果損害との間に相当因果関係が存在するかどうかということによって決められます。したがって、初めから終りまで相当因果関係の中断がない場合には、車体の右も左も後部も破損したというようなときであっても1回の事故とみなされますが、中断があると判断されれば、2回以上の事故ということになるわけです。
 たとえば、時速50キロで雪道を走行中、犬が飛び出したので避けようとして、スリップして左側のポストに衝突しさらにスリップを続け、車は180度尻を振って後部を右側のガードレールに衝突させたというような場合を考えてみましょう。前部と後部は順々にそれぞれ異なったものと衝突してはいますが、そのような条件のもとではよけそこなってからそれ以後は誰が運転していても同じような結果になったでしょうし、ポストに衝突した後、さらに別の原因によって後部の衝突がおこったわけでもなく、後部の衝突の原因も初めの運転操作の誤りによることは明らかです、したがって、このような場合には連続した1回の事故とみられるわけです。
 これに反して、前部を電柱に衝突させ、その後あわててバックしたところ後部を塀に接触させたというケースの、後部の接触事故の原因を考えてみますと、いったん下車してから、改めてギアをバックに入れかえた後の事故は、初めとは別の過失によって生じたもので、電柱との衝突やその原因であるところの操作の間違いが原因であるとは考えられません。したがって、一番初めの過失による事故は電柱との衝突のみであり、後部の損傷は前の事故とは別個の独立した過失によって生じた別事故と考えられますから、このような場合には2事故であるということになるわけです。
 なお、転落事故の際に運転者が負傷して現場を離れざるを得なかったような場合で、車両を放置しておいた間に盗難損害が後発したようなときは、後発損害の防止可能性の有無と、後発損害が当初の事故当時予見可能か否か相当因果関係を検討のうえ1事故か2事故かを判別することになりますが、多くの場合2事故と判断されることでしょう。
つぎに、免責金額控除の問題ですが、本問の例では前部と後部の損害の合計金額から2倍の免責金額を控除するといったように受け取れますが、この考え方からすると保険金を算出する方法は、
 損害額総合計−(免責金額×2)
ということになりそうで、この場合に実際の金額をあてはめてみると、
 7万円−(1万円×2)=5万円
ということになりますが、これは必ずしも2事故の損害額を1度に請求する場合すべてにあてはまる計算方法ではありません。
 約款によれば、1回の事故による損害の額が免資金額を超過したとき、その超過分に対してのみてん補の資に任ずるわけですから、支払われる保険金は「第1回目の事故による損害の額一免責金額」と「第2回目の事故による損害の額一見資金額」というように別々に計算するのが正しいわけです。たとえば、合計損害額が7万円であっても、第1回目の分が3万円で第2回目の分が4万円のこともありましょうし、あるいは第1回目の分が6万2千円で第2回目の分が8千円ということもあるわけです。
そこで、後者の場合であるとして計算してみますと、
 第1回目 6万2千円−1万円=5万2千円
 第2回目 8千円−1万円=支払いなし
という結果になり、1回目分と2回目分の 保険金を合計した5万2千円が支払われるということになります。これは、前者の場合の保険金合計5万円とは異なっています。
 このように2回の事故とみなされる場合は、その中の1回の事故による損害が免責金額以下のこともしばしばありますから、それぞれの事故によって生じた損害の額をできるかぎり朋確に区分し、各々の損害の額から車両免責金額を控除した額が支払われるということになります。

保険の意義と機能/ 保険の分類と種類/ 自動車保険の概要/ 保険事故と保険当事者/ 保険金と保険料/ 交通事故被害者の請求権の種類/ 保険契約時の注意事項/ 企業の保険のつけ方/ 保険の取扱い機関/ 自賠責保険の趣旨/ 自賠責保険における被保険者の範囲/ どんな事故まで自賠責保険の対象となるか/ 同乗者に対する責任は自賠責保険の対象となるか/ 加害者に自賠責保険が支払われない場合/ 自賠責保険金の請求ができる者/ 自賠責保険の対象となる治療の範囲/ 自賠法の特色と限度額/ 自賠責保険金を請求する手続き/ 承諾書に捺印した後での異議/ 自賠責保険金受取後の追加支払請求/ 複数の車が加害者となった場合の賠償請求/ 被害者に過失がある場合/ ひき逃げその他の場合の自賠責保険金請求/ 任意保険の種類/ 任意保険のつけ方/ 任意保険の契約期間中の事情の変更/ 車両保険金が支払われる事故/ 車両保険を支払ってもらえない場合/ 運転者に重過失のある場合の車両保険金の支払/ 暴動や天災などによって破損した場合の車両保険金の支払い/ 詐欺や横領の場合の車両保険の支払い/ 無免許運転での事故による車両・賠償保険/ 自然消耗などによっておきた事故での車両保険金/ 部品交換費用などは車両保険の対象になるか/ 全損の場合の車両保険の支払/ 車両保険の免責金額の控除と事故回数/ 盗難の場合の車両保険金/ 事故の責任が被保険者以外の者にある場合の車両保険金/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク