自動車保険の概要

日本では、戦後における自動車産業の急激な進展と国民の所得水準の向上、生活の近代化などによって、爆発的なモータリゼーションが招来しました。そして、大都市はもちろん、地方都市にいたっては、一人一台となっています。他方、これに比例して自動車事故が増大し、今日では,文字どおりの交通戦争となり交通地獄を露呈しています。
 ところで、このような交通事故の被害者の累増は,最近の日本の経済の発展による国民所得の増加や物価の上昇および人権尊重思想の高揚にともなって、国民の賠償観念を著しく高め、賠償金額も年々高騰するようになりました。現在では,死亡事故や後退障害事故で、億を越す事件も珍しくはなく、物損事故でも部品や人件費の高騰から賠償金額が上昇し、あるいは休業損害や休車損害などの消極的損害まで請求する事例が多くなりつつあります。
 そこで、多額の賠償金を支払う備えに欠けている加害者側(運転者、保有者)の場合、被害者側の悲惨はいうまでもありませんが、加害者側もまた事故のためにこれまで築いてきた努力の成果を一挙に失い、多額の賠償金に絶望して自殺したり、倒産して妻子を路頭に迷わせるような状況も見受けられるようになりました。
 このような社会的背景のもとで生まれたのが、昭和30年に制定された「自動車損害賠償保障法」です。この法律によって、自動車側に一定の賠償能力を常時確保するための措置がとられ、保有者に無過失責任に近い責任を負わせて、被害者の保護、救済の措置が講ぜられるようになりました。また、それまで放置されていた、ひき逃げ事故の被害者らも、政府の保障事業によって救済を受けられるようになったのです。

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広義の自動車保険には、いわゆる強制保険と任意保険とがあります。
 強制保険とは自動車損害賠償保障法(自賠法)によって、運行の用に供する自動車にその付保が強制されている保険で、自賠責保険ともいい、自賠法上では責任保険とよばれています。もし、この保険をつけないで自動車を運行の用に供しますと、6月以下の懲役または5万円以下の罰金に処せられます。
ただし、適用除外車、自家保障車および責任共済締結車などは除かれます。これに対し任意保険とは、法によって付保を強制されていない保険で、保険業界では,自動車保険といえば、通常はこの任意保険としての自動車保険のことをいっています。任意の自動車保険(狭義の自動車保険)は、担保種目別に分けると、車両保険、賠償(責任)保険とこれらの付加担保としての傷害保険、運転者賠償保険の4種となります。車両保険は,自動車が偶然な事故によってこうむる車両自体の直接損害に対して、保険金を支払う物保険(または財産保険)の一種です。
 賠償(責任)保険は,対人賠償保険と対物賠償保険とに分かれています。前者は、自動車の所有、使用、管理に起因する人身事故によって、法律上の損害賠償責任を負担することによってこうむる損害のうち、自賠責保険の支払額を超える部分について保険金を支払うもので、自賠責保険に対して、いわゆる上積み保険の役目を果たしています。後者は,同じく物を対象として他人の財産に損害を与えたときの賠償損害に対して保険金を支払う保険です。いずれも責任保険の分野に属します。
 つぎに付加担保傷害保険、独立して契約することは認められず、車両保険または賠償保険の特約条項で担保されるものです。従前は、運転者、車掌を対象とする運転者傷害保険と搭乗者を対象とする搭乗者傷害保険の二種類に分けられていましたが、前者は廃止され、搭乗者傷害保険一本に統合されました。もちろん、この保険は、いわゆる人保険に属します。
 つぎに、以上のほか、自動車運転者損害賠償責任保険が誕生し、昭和43年6月1日から実施されました。この保険は、略して運転者賠償保険といい、また一般にはペーパードライバー保険、あるいはドライバー保険とよばれています。この保険の特色は、人につける人本位の保険で自動車をもっていない人(いわゆるペーパードライバー)が、安心して他人の車やレンタカーを運転できるようにしたもので、原則として業務と関係のない保険です。
 また、この保険の新設にともなって、自己の所有する自動車に自動車保険(賠償担保)をつける場合、その記名被保険者本人に対して、他人の自動車やレンタカーを借用して運転中の賠償危険を拡張担保するため、非所有自動車損害賠償危険担保特約が新設されました。略称を他事運転特約、またはアザカークローズともよばれています。
 このように、任意の自動車保険は、それぞれ範ちゅうを異にした種目をもち、他方また、保険金額の決定はもちろん、保険料の団体扱い、月掛け、分割払いなど、需要者の要望に応じてキメの細かい引受けができるようになっています。付加担保としての傷害保険以外は、一担保種目でも付保できますが、どの種目も保険は車両に付けるものとなっており、車両を外して、これらの保険をつけることはできません。ただし前述の運転者賠償保険だけは,人につけるものですから、車にとらわれません。
 なお、保険料は、すべて車種別、用途別にたてられ、同一ではありません。
ところで、自賠責保険については自動車損害賠償責任保険普通保険約款があり、任意の自動車保険については、全社共通の自動車保険普通保険約款があり、前者は20ヵ条,後者は3章35ヵ条から成り立ち、これが自動車保険運用の基盤となっています。 そして、保険金の具体的算出方法は、自賠責保険では、その保険の特殊性から、各保険会社が独自、任意に算出する場合に起こる弊害を除去するため、政府から自動車損害賠償責任保険損害査定要綱が保険会社に示され、これを事業方法書に織り込ませています。また、保険会社側も共同して、各地に共同査定事務所を設けて、同一の取扱いによって公正な査定をするよう配慮していますから、はなはだしい不均衡は防止されるでしょう。
 なお、ひき逃げ、無保険車事故の被害者に行なう政府の保障事業における損害査定については、これとは別に政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基」によって運用されています。

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