詐欺や横領の場合の車両保険の支払い

約款車両条項1条1項によれば「盗取その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車について生じた損害」を負担すると定めていますので、盗取による損害ならば盗難危険不担保特約条項が保険証券についていないかぎり、その損害に対し保険金が支払われます。しかし、約款車両条項2条9号には「詐欺または横領」によって生じた損害は免責であると規定されています。
 詐欺、横領については刑法上の定義にしたがって判断されます。
 「詐欺」については、刑法246条により定義づけられます。すなわち、被保険者である車の持主をだましてエンジンキーや車の引渡しを受け、自分や他人のために車を使ったり売り払ったりして不法に財産上の利益をうる場合がこれにあたります。
 「横領」についても刑法252条、253条の定義に従い、被保険者である車の持主から車の使用を認められている者、たとえば、傭人、運転手、修理工場工員などがその地位を利用して自分のために車を使ったり、売り払ったり不法に財産上の利益をうる場合は「横領」に該当し、保険金は支払われません。
 このような損害を保険で支払わないのは、どちらも被保険者自身がだまされたり、信頼を裏切られたりして被保険者の意思が介在しており、自動車保険で支払う損害としては他の交通危険損害と性質が異なり、このような損害を支払うと被保険者がみずからその損害を防ごうという気持が薄くなるのを避けるためです。

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詐欺、横領にあった車両が破損して発見された場合、その車両損害について保険金は支払われるかという問題があります。
 約款の文言および制定の趣旨からみて、詐欺・横領によって車が被保険者の手元にもどってこない場合のほか、詐欺、横領によって被保険者の使用、管理から離れている間の損害も「詐欺あるいは横領」と相当因果関係のある損害としてすべて保険金は支払われません。
 雇傭主の車を詐欺または横領中の犯人が運転中に第三者に与えた賠償損害は、犯人の雇傭主に車が詐欺、横領されることにつき過失があった場合、すなわち管理上の過失があった場合は、雇傭主たる被保険者に賠償責任を生ずることも考えられ、そのときは、約款上は、車両条項と異なり賠償責任条項には免責規定がないので保険金が支払われます。

会社の運転手が得意先に行くと言って自動車を乗り出し、そのまま帰ってこないので、警察に届け出て捜索をしてもらっていますが、2週間たっても行方がわかりません。自動車がないと商売に困るので新しく自動車を購入したいのですが、乗り逃げは保険金を支払ってもらえるのでしょうか。
 この場合は、会社の車を運転手が持ち出して2週間もの間帰って未ないのですから、持ち出した運転手は、自分の車として使用し所有している者と判断されます。この持ち出しが詐欺か横領かについては「得意先に行く」との運転手の言にだまされて車の使用を認めたのであれば「詐欺」であり、その運転手が会社を出てから客先に寄った後急に心変りして乗り逃げしたというのならば「横領」であり、いずれにせよ車両保険金は支払われません。

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