被害者に過失がある場合

不法行為があった場合、加害者の負担すべき損害額を定めるにあたって、被害者にも責められるべき点があれば、それを考慮することを過失相殺、または過失の斟酌といっています。その存在理由としては、公平の原則、すなわち一定の事故に寄与した原因の割合によってその結果について責任を分担することが社会生活上公平であるからだといわれています。
 被害者の過失は、不法行為の成立(損害の発生も含む)自体に寄与した場合と、発生した損害の拡大に寄与した場合とが考えられます。いずれの場合にせよ、過失相殺の対象となるのはどの程度の過失をいうかは議論のあるところです。多数説は不法行為の成立要件の場合のような厳格な意味での過失である必要はなく、不注意によって損害の発生を助けた程度で足りる、とされています。
 また、もし被害者が幼児である場合には、その幼児の過失を斟酌するには「幼児が事理を弁識するに足る知能を具えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要しない」とされています。
 また、今日では死亡者の父母・配偶者および子が、固有の慰謝料を請求する場合に、死亡者の過失を斟酌されることについては異論のないところといえましょう。

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つぎに、いわゆる被害者側の過失の問題があります。被害者側とは、被害者本人に直接責任を負わせることが困難な場合に、被害者と特別に関係ある者を総称していうのです。
 まず、被害者が事理弁識能力の十分でない幼児の監護義務者の過失については最高裁判所は「民法722条2項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきである」とし、この場合「被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するを相当とする」と判示しています。
 その他の場合で被害者以外の者の過失を被害者側の過失として斟酌されるのは、一般に被害者側がその者の過失を防止できる地位にあるのにこれを怠ったとか、また被害者がその者の過失について法律上の責任を負う地位、たとえば使用者であるとかいうような場合が考えられます。
 この保険の保険金の内容をなすものは、加害者が賠償すべき損害額ですから、とうぜん過失相殺の法理が適用されることになります。
 しかし、数十万作の人身事故を迅速かつ簡易に処理する使命をもつこの保険の損害査定機構では、裁判所におけるように真の事実関係を調査のうえ、総損害額を把握し過失を評価する作業は不可能といえましょ う。また、政令で支払うべき保険金の限度額が定められていますので、この保険だけでは被害者に対する十分な損害てん補ができない場合が多いのが現状です。そこでこの保険の査定実務では、過失相殺は重大な過失が認められる場合にのみ適用し、その割合は30%以内に止め、過失がないときに支払われるべき保険金の額に対して相殺を行なっています。
 この認定は個々の偏差をともなうおそれなしとしませんので、各保険会社とも自動車保険料率算定会に調査を依頼し、処理の公正を期しております。

被害者は、酒に酔って原動機付自転車に乗り、信号を無視して、交差点に突入し、私のトラックの側面に衝突して死亡しました。私は法令には違反しておりません。信号に従って走行中でもあり、原動機付自転車が走行して来るのを認めはしましたが、当然停止するものと思い、前方を注意している間に衝突しました。このようなときにも、自賠責保険金は限度一杯支払ってもらえるのでしょうか。私には賠償責任がないと思いますが、せめて自賠責保険金のでているものであれば、請求させたいと思います。

 この場合、被害者に重大な過失があることは明らかです。しかし「進めの信号により交叉点に入った自動車の運転手が信号無視の他車を認め衝突の危険を覚知したときは、衝突を防止するのに適当な措置にでるべき注意義務がある」という判例もありますから、果たしてあなたが免責となるかどうかは裁判をまたなければ明確ではありません。
 とくに、過失相殺はいわば責任の範囲の理論であって、被害者の過失が極めて大であっても、人身事故の場合、自賠法3条但書の免責要件の立証を加害者ができない限り、免責されることはないということです。
 したがって、このような場合でも保険金は支払われるのが普通です。詳細な情況は不明ですが、おそらくこの保険での最高の30%の過失相殺が適用され、限度額の70%が支払われることになると思われます。

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