自賠法の特色と限度額

自賠法はつぎの2点が大きな特徴であるといわれています。
 第一に、人身事故の場合の賠償責任を適正にするための措置です。自賠法3条は、原則として加害者側に故意・過失がないとともに、被害者または第三者に故意・過失があったこと、および自動車の構造機能に欠陥がなかったことを加害者側で証明できないかぎり、加害者側に賠償責任を負わせています。民法の規定だけですと賠償請求する被害者側で、加害者側に故意・過失のあったことを証明しなければならず、一瞬のうちに発生する自動車事故の場合これはなかなか困難なことです。つまり、自賠法では立証責任の転換をして、加害者側に無過失責任に近い責任を負わせており、民法709条や715条の特則(特別規定)といわれています。
 第二に、強制保険制度です。前述のように無過失責任に近づけて賠償責任を加害者側に負わせても、支払能力がなければ絵にかいた餅で、効果は期待できません。そこで、原則としてすべての自動車について賠償責任保険の締結を義務づけて、被害者保護の裏付けをしています。また、被害者から直接保険会社へ請求できる制度や被害者への仮渡金の制度も設けてその徹底を期しています。

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自賠責保険では、支払う保険金の限度額が政令で定められています。このような定額的支払いについては、損害賠償理論からいえば、幾多の疑問を生ずるところですが、強制保険制度によるとすれば、その保険技術上定額的支払方法をとらざるをえません。すなわち大量の事案を迅速・公正かつ簡易に処理する必要や、適正な保険料率を算出する必要があり、また強制であるだけに契約者の負担する保険料の額にもおのずから限界があるからです。
しかしね自賠法は責任の範囲、すなわち加害者はいくら賠償すべきであるかについてはなんら定めていません。したがって、被害者は民法の定めるところにより全損害の賠償を請求することができますし、自賠責保険の保険金では賠償されるべき額に充たないときは、当然その差額を請求することができます。このような場合に備え任意保険としての自動車保険があります。
 東京地裁は昭和38年6月26日の判決のなかで、この点についてつぎのように明快に判示しています。
 「自賠法3条の規定は、損害賠償の範囲を何等制限していないし、他に、損害賠償の範囲を定めた特別の規定は存在しない。同法第13条及び開法施行令第2条の各規定は、自動車の保有者に同法弟3条本文の規定にもとづく損害賠償責任が発生した場合に、保有者の賠償能力を確保する措置として新設された自動車損害賠償責任保険契約によって保険会社が保有者に対し、損害を填補するために支払う保険金の限度を定めたものであるにとどまり、自動車運行供用者の損害賠償義務につき同法弟3条本文の規定の適用を制限することまでを定めたものと解することはできない。
 また、同法第16条の規定は、被害者が保険金額の限度において、保険会社に対し直接損害賠償を請求することができることを定めたにとどまるし、第17条の規定も、保険会社に対しやはり保険金額の限度において損害賠償の仮渡金を請求することができることを定めたにとどまり、いずれも、自動車運行供用者の損害賠償義務につき自賠法第3条本文の規定の適用を制限する規定であると解することはできない。」
 したがって、賠償されるべき全損害が、自賠責保険の限度額をこえていれば、当然その差額も請求できますから、まず要求できる損害額を検討されるのが先決問題で、軽々に示談書に捺印される必要はありません。
 前述のように、自賠責保険には被害者請求の制度があって、保険会社へ直接請求されれば実損が認められ、加害者側にその損害が支払われていない限り、原則として全額、一部支払いがあったときは限度額との差額が支払われます。この場合もちろん示読書を保険会社へ提出される必要はありません。とくにお急ぎの事情であれば、受け付けてから原則として数日以内で支払われる仮渡金の制度もありますから、これを利用されたらよいでしょう。

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