自賠責保険金受取後の追加支払請求
被害者が一応治癒したので、示談を締結し、自賠責保険金も受領して、安心していると半年後に、被害者に後遺症が発生し、前の示談は無効だから追加して賠償金を支払えといわれています。この場合は追加支払をしなければなれないのでしょうか。
ムチ打ち症をはじめ、自動車の交通事故による後遺症は非常に多く、傷害事故全体の数%程度はなんらかの形で後遺障害がのこるといわれています。しかもその後遺症のうち「神経症状を残すもの」や「機能障害」「運動障害」の後遺症は、それが受傷後直ちに症状としてあらわれてこない場合や、かりにあらわれたとしても、果たしてそれが完全に治癒するものなのかどうか早急には判断できないものが多くあり、事故当時の示談締結時における厄介な問題の一つとなっています。
本問の場合も、事故から半年も経ってから被害者に後遺症が発生したとのことですが、まずこの後遺障害と事故との因果関係を被害者が立証できるかどうかに問題がありますが、ここでは病院の証明等でその点が立証できたとの前提で話を進めてみます。
示談とは裁判外で当事者間に成立した「和解契約」のことをいい、したがって和解についての民法696条の規定によって法律的な位置づけがなされているということができます。要は、いったん示談すればこれで当事者間の争いがすべて終了したことになり、特段の事情のないかぎり、被害者は以後の損害賠償請求権を放棄したものと認められます。なぜならば、示談をしても将来安易に覆えされることになると、示談の意味がなくなり、広い意味の法的安定性を害するからです。
では、示談成立後もなお被害者が賠償の再請求ができる 「特段の事情 」とは何かということですが、まずその内容が公序良俗に反している場合や詐欺・強迫によって示談をした場合に、これは民法の規定により、和解契約たる示談そのものが無効となります。
判例でも、あまりにも被害者にとって苛酷な示談は、公序良俗に反するとか、本人の真意にもとづいたものでないとかの理由で無効であるとしたものがあります。
では本問のように 「示談後に当初予想されなかった後遺症が発生した場合」はどうかといいますと、これは錯誤にもとづく契約とみなされるか、またはいわゆる事情変更の原則が適用されると判断された場合には、被害者は再度賠償請求することが可能と考えられます。
これが適用される条件は、一口でいえば示談締結の当時、このような後遺症の発生が予見できずまたは予見することができない状態であったということです。
ところで、この点に関して注目すべきは、近年の最高裁の判例で「文通事故のけがで程度がはっきりしないうちに少額で示談が成立し、あとで後遺症などが出た場合、示談額をこえてさらに請求できる」との趣旨が明らかにされましたが、これが今後の大きな指針となるでしょう。
自賠責保険でも前述の考え方に立って、当時予見できなかった後遺症の発生の場合は、保険金の追加請求をみとめております。ただ念のためですが、当時十分後遺症の発生が予見されておりながら示談解決しているとか、さらには後日発生見込みの後遺症についてその請求権放棄を意味するような条項が挿入された示談を締結している場合にはこのかぎりではありません。
請求方法は、こういう場合通常すでに傷害による保険金を請求済で、その際保険請求に必要な警察の事故証明等は保険会社に提出済のことと思います。したがって、保険金支払請求書と後遺症発生による賠償金を追加支払するにいたった理由書とその裏付けの医師の診断書ならびに被害者の賠償金領収証を保険会社によく事情を説明し提出すれば、あとは保険会社窓口の担当者が詳しくその後の手続き等について説明をしてくれます。
ところで、この際、示談成立後の被害者請求についてふれておきたいと思います。
自賠責保険では、示談成立後であっても、後日にいたって後遺症が発生した場合のみにかぎらないで、一般に示談の条項・金額が被害者にとって非常に酷と考えられる場合には、錯誤による示談または事情の変更と認めて示談のなかった場合と同様に扱うことができる特別措置をとっております。ただし、これが安易な適用は許さるべきものではないという見解から、保険会社は極めて慎重な運用方法をとっているようです。
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