企業の保険のつけ方

自動車を多く保有する企業の場合には、保険料総額もいきおい多額となり、会社経費の増大につながり、企業の円滑な運営を妨げることがあります。かといって、保険 なしの企業は、万一の場合会社の根底を揺がす大問題となり、中小企業にあっては、自動車事故が倒産原因の一つに数えられるようになりました。これは、いささか大げさな表現のようですが、事実として倒産した会社があり、今後、企業者責任(使用者責任)の拡大化と損害賠償額の高騰化によって、その傾向はますます顕著なものとなるでしょう。その意味で、保険のつけ方は、しばしば企業の運命を決定づけるとまでいわれています。企業が損害保険を合理的につけるためには、つぎのような点に留意しなければなりません。
 まず、保険の対象となる財産をよく調べて、適正な評価を行ない、また、時の経過にしたがって実情と合うよう評価を訂正し、常にその全体の正確な時価評価をつかんでいる必要があります。そうすれば万一の事故の場合、いわゆる一部保険として十分なてん補が受けられないで困ったり、また、超過保険として、見込んでいた保険金が支払われず保険料を損するというようなことはなくなるでしょう。
 事故が発生した場合に生ずる損害の形態を調べ、企業の在り方、状況との関連において、どのような保険が必要であり、有利であるかを考えましょう。たとえば、過失によって他人に加える損害に対する賠償責任を主として考えるならば、自賠責保険のほか、対人、対物の賠償保険を考えるべきであり、自己の自動車の損傷がてん補されることを必要とする場合には、車両保険を、搭乗中の運転者や車掌などのこうむるべき傷害を考慮するときは、搭乗者傷害保険をかけなければなりません。
 日常から運転者、車両の管理状況を把握し、事故発生防止への努力を怠らないようにすることです。保険会社は、私企業ですから、悪質な契約者や事故率ないし損害率の高い不良物件は引き受けない傾向にあり、引き受けてもディメリット・レート制度で特別付加料率が適用されたりします。

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以下に掲げる内容は、保険会社が保険引受けに際し、物件選択のポイントとなるもので、企業側としても交通事故を少なくし、有利な保険契約を締結できる要件ともなる事項です。

運転者の管理状況
運転者数および車両台数との対比。運転者の年齢・運転経験年数・勤続年数(定着性)・既婚未婚の別。交通違反件数・内容。適格安全運転管理者の存否。運転者の採用方法。運転者の音吐検査実施の有無・状況。健康管理(定期検診・始業点呼)の実施状況。生活管理面の状況・宿泊施設・休憩所・仮眠所等の有無。運転者の1日平均勤務時間・走行距離。給与の方法(固定結か歩合給か)。運転日誌・日報の備付けの有無。タコグラフ備付けおよび記録分析の有無。運行計画の指示日時・方法。安全運動の実施・事故防止研究会設置等の有無・状況。事故運転者・多発者の措置。運転者の賞罰制度の有無。損害賠償・罰金の負担状況。

自動車の管理状況
車両台数・種類。車両の使用目的・方法。取扱い貨物の内容と重大事故発生の有無。主たる運転区域・区間・集配地域、長距離運行の有無。運行時間(昼夜の別)。車両点検の実施状況(定期・臨時・始業・整備など)。車庫・駐車場の状況・路上駐車の有無。車両の清潔整頓・社名の表示。自動車の管理や鍵の保管状況。管理規則の存否。修理工場の有無・信用度。タコグラフ取付けの有無。

事故発生対策
過去の事故発生件数・損害額。同種同業の車の事故損害の傾向とそれとの比較。事故頻度。1件当りの損害額の大きさ。事故原因の分析の有無・状況。事故後の改革点。事故防止のため採られている方法。事故防止研究の存否・内容。
 保険会社では、以上の諸点を調査し、実績と予測の上に立った検討がなされます。そして、契約引受けの可否や料率・条件等が提示されることになります。したがって、企業側は、日常から運転者・自動車の管理状況に留意し、極力事故防止に努め、よい実績を確実に育て上げていくことが必要です。
 最後に、保険料の節約について十分検討を加えるべきです。
 以上要するに、企業の保険は、企業責任者の保険による危険管理の重要性の自覚と担当者の日常のあくなき研究による合理的なプランにあるといえるでしょう。

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