保険事故と保険当事者
保険の対象となる特定の偶然な出来事を保険事故といいます。そして、この保険事故発生の可能性またはその可能性を生ぜしめる基礎となる状態を保険危険とよんでいます。ただ、保険危険には、保険事故の発生による損害を負担しなければならない保険者の責任または保険者の負担することのありうる損害のことを意味する場合があり、保険約款などでは、この意味に使われることが多いようです。
そして、保険契約において保険事故が発生した場合に損害のてん補その他の給付(通常は保険金の支払い)をする義務のある者を保険者(私営保険の保険者となりうる者は保険会社、公営保険の保険者となる者は、国、地方公共団体、公法上の特別の法人または公益法人)保険者と保険契約を締結して保険料支払の義務のある者を保険契約者また、その保険によって損害をてん補される者を被保険者といいます。そして、保険事故発生に際して保険金の支払いを受けるべき者として定められた者を保険金受取人とよびます。これらのうち、保険者および保険契約者を合わせて保険契約当事者といいこの当事者に被保険者、保険金受取人および保険者の補助者としての保険代理商、募集人、嘱託、診査医などを総称して保険契約関係者とよんでいます。なお、保険をかけることを付保といい、かけられた保険を付保険ということがあります。
損害保険は、発生した損害を保険者がてん補するものですが、ここにいう損害とは偶然な事故の発生によって被保険者がこうむる財産上の不利益のことをいい、てん補とは、その損害をおぎない埋めること、つまり、保険金でまかなってくれるということです。もちろん、その損害てん補は、約定の保険事故によって約定の被保険利益について生じた約定の範囲の損害に限られますから、常に全損害をてん補してくれるというものではありません。
物保険では、保険事故発生の客体(たとえば、車両保険における保険証券記載の自動車、原動機付自転車およびその付属品)を特に保険の目的といいます。
一般に保険によって担保されているものを担保危険といい、その内容を保険証券に具体的に記載した危険のみの損害を担保するやり方を列挙危険担保方式とよんでいますが、車両保険では新約款によって、一切の偶然な事故によって生じた損害について担保するという包括担保方式(オールリスク方式)を採用しています。
なお、保険は、その担保種目により、選択して必要な保険をかけることを原則としていますが、なかには付加担保保険といって、単独ではかけられず、他の保険種目といっしょに付保することになっているものがあります。たとえば、搭乗者傷害危
険担保が、これにあたります。
保険の対象となる損害担保の範囲は、種目によってもちろん異なります。強制保険や対人賠償保険としては、物的損害としてのいわゆる積極的損害と消極的損害のほか精神的損害とがあります。積極的損害とは、現実に支出したかあるいは将来支出しなければならない費用で、葬儀費用、入
院費、治療費、交通費、通信費などが、これにあたります。消極的損害とは交通事故さえなかったならば被害者がうることができた筈だった収入の喪失のことで、逸失利益損害とか将来得べかりし利益の喪失損害あるいは簡単に将来損などともよばれています。たとえば、死亡事故の場合、被害者の現在の給与、収入あるいは統計上の平均的給与、収入からして将来就労可能年数の間稼働することができたと推定されますから、その間の本人の生活費を差引いて純益金額を算出します。そして、これを一括して全額を一度に現在支払う場合には,年利5分として中間利息を控除して現価を出す方法が採られます。この計算方法をホフマン式計算法といい、これには単式と複式とがありますが、現在、最も広く利用されているのは、この利息を1年ごとに計算する複式ホフマン式計算法です。また、精神的苦痛に対する損害は、慰謝料として支払われます。いわゆる、お詫び料、痛み料とよばれているものですが、実質的には、雑費てん補の含みもあるようです。なお、任意保険の対人賠償保険は,強制保険(共済保険でも同じです)で支払われる金額を超過した場合に、その超過分についてのみ保険金が支払われます。対人賠償保険が上積み保険とよばれている所以です。
賠償の範囲を具体的に定めることは容易ではありません。一般的には相当因果関係の認められる範囲での損害について支払われます。そして、この損害額は、被害者側に過失のあるときは過失相殺されるのが普通であり、二重衝突などいわゆる共同不法行為は、被害者に対して連帯責任を負います。
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